「山田~!」
「なんだよ鈴木。」
「父ちゃんがさ、商店街の福引でテーマパークの招待券当てたんよ。」
「おぉ、スゲェな。お前の父ちゃん、人生の運の総決算だな。」
「そんなに褒めるなよ。で、2人ペアだからさ、」
「オレの姉ちゃんと行きたい、と。」
「…まぁ、そうなればどんなに良いだろうな…。」
「こっちが引くほどブルーになるな。で、オレも連れてってくれるのか?」
「ぃエス!行ってみようぜ!」
「で、代わりにオレの姉ちゃんの写真をよこせ、と。」
「…まぁ、オレの見果てぬ夢だがな…。」
「まぁ、今度、そのうち、いつの日か、写真やるから。で、どこのテーマパーク?」
「なんか、新しく出来た所らしいよ。」
「フーン。じゃあ、今度の日曜日に行ってみるか。」
「さんせいのはんたい!」
「ここか。そんなにデカくないんだな。」
「ちょっと広い公園くらいだな。え、と、『うりなぱーく』?」
「てことは、ここのゆるキャラは『うりなくん』か『うりなちゃん』だな。」
「いや、『うりなたん』だ!」
「ホントに鈴木は萌え大好きだな。とにかく入ってみよう。」
「アトラクション、というか遊具が、1、2、3…10か所か。」
「ジェットコースター的なモノとかお化け屋敷的なモノとかだな。」
「あとは食い物屋が2つと、お土産屋も2つか。ホントにちょっと広い公園だな。」
「山田~、オレ、ノド乾いた。」
「お前は欲望に忠実だな。そういえば、入場券と引き換えに『ウェルカムドリンク券』をもらったな。」
「なんだ、そのウェルカムって。」
「まぁ、『ようこそ、一杯どうぞ!』ってことだ。よし、まずはあそこで何か飲もうか。」
「え~と、コーヒー、ココア、紅茶に、豆乳?何故豆乳?」
「キウイスカッシュ、プルーンスカッシュ、スイカソーダに、果汁100%メロンソーダ?」
「山田、『キューカンバーシェイク』ってなんだ?」
「分からん。分かるやつを飲もう。お姉さん、オレ、メロンソーダ。」
「オレはお姉さんがいいな。」
「あ、無視してください。」
「オレは本気だ!」
「こいつには豆乳お願いします。」
「お姉さんのとうに」
「無視してください。」
「お前はホントに女が好きというか、そういう病気だな。」
「男子たるもの、女人を追い求めて、むべなるかな。」
「…そうしてくれ。よし、どれに乗ってみようか。」
「なんだろな、この『ブリザードクルーズ』って。」
「…大体想像はつくが、取りあえず乗ってみるか。」
「…ひたすら銀世界だな。」
「…ひたすらクソ寒いな。」
「延々とペンギンと白熊がウロウロしてるんだが…。ここはどこなんだ?北極か?南極か?」
「地球じゃないのかもしれん。」
「それは新しいな。」
「あ、オーロラ。」
「なんか前の方がえらく白いぞ。」
「ひゃああああああああああああああああああ!」
「吹雪じゃああああああああああああああああ!」
「だから『ブリザード』なんだろおおおおおお!」
「さみいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「オレ、ココアがこんなに美味いと思ったの初めてだよ。」
「ホットの豆乳って、温まるな…。」
「さて!次、どれ行く!?」
「お前の物怖じのしなさはどういうガッツなんだろうな。」
「…なんだろな、この『バベルの図書館』って。」
「もうパンフ見てるのか?…『バベル』って、神話のヤバイ塔だよな。結構激しい系かも。」
「イイ!激しいの行こう!」
「…スゴイ量の本だな。」
「本棚?いや、本の量だろ。」
「そう言ってるよ?ていうか、雑誌とかマンガとかもあるな。」
「コレ、図書館というより、本屋だよな。」
「だよな、どの人形も立ち読みしてるし。」
「子供が座り込んで本読んでるな。」
「あの人形、万引きしてるぞ。」
「その向こうのおばさんの人形は、万引きGメンか。」
「この本、全部本物なのかな、本屋のあの匂いがする。」
「全部本物だろうな。ヘンなところに凝ってるな。」
「あ、乗り物止まった。」
「…動かないな。」
「ここで周りを見てろってことか?」
「え?この本と人形を?見どころは?」
「…万引き?」
「…えー…。」
「結局30分は停車してたな。」
「何がどう『バベル』なんだか…。」
「あ、オレちょっとトイレ行ってくる。」
「はいよ。」
「…え、お姉さん、あそこの大学なの?今度学祭案内してよ~。お、おかえり。」
「…掃除中だった。」
「ツイてないね~。どうする、別のトイレ行く?」
「いや、次のアトラクション行こう。」
「360°スクリーンで渓流の映像鑑賞って、コレ、どういうコンセプトなんだ?」
「…リラックス?かな?ひたすらチョロチョロだったな。…よし、トイレ行ってくる。」
「はいよ。」
「…え、ウチの高校じゃんか!2年生!?オレとタメじゃんか!あ、おかえり。」
「なんか、スッゲェ混んでて、入れなかった。」
「ツイてないね~。あ、お姉さんの妹さん、ウチの高校で、タメだって!」
「お前、スゴイな…。…悪い、しばらく待っててくれるか。トイレに行きたい。」
「あ、オレも行きたい。またね、お姉さん~。」
「あれ、掃除中だ。」
「ホントだ、スゲェ混んでるな。」
「ここも掃除中!?」
「なんでこんなに混んでるの!?」
「まずいぞ!」
「確かに、まずい!」
「こんな感覚は小学校以来だ!」
「オレは昨日の5限だったけどな!」
「どこかは空いてるはずだ。そうだ、パンフ貸せ。」
「はいよ。」
「園内マップで、出来るだけ離れたトイレを探そう。そこなら空いて…。」
「…どうしたよ?」
「…トイレが書かれてないぞ?」
「は?」
「園内マップにトイレが書かれてない!?」
「ウソだろ、ちょっと見せろ。…え?は?なんで?」
「印刷ミス?ウソだろ、おい!」
「そうだ、あのお姉さんにトイレ貸してもらおうぜ!」
「おぉ、従業員用だな!鈴木、今世紀最大のヒラメキだ!」
「おねーさーん!」
「おねーさーん!」
「お、おお、おおおおおおおおおおおお…。」
『本日は「ウリナパーク」にお越しいただき、誠にありがとうございます。』
「え?」
『人間の三大欲求は「食欲、性欲、睡眠欲」と言われていますが、もう1つ重要な欲求がございます。』
「…そうか!」
『その欲求を存分に満たしていただければと、当パークは願っております。』
「そういうことだったのか!」
『当パークのコンセプトはお気に召していただけましたでしょうか?』
「…あ、ゆるキャラだ。」
「…リボンしてるから、『うりなちゃん』だな。」
「…『うりなたん』だってば。」
「…黄色いな。」
「…黄色い。」
~ おしまい ~
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