我は所詮ロボット 最終回

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 走査を終了し、僕は今一度辺りを見回した。一面の屑鉄が少しずつ侵食され褐色の大地を形成している。恐らくここは廃棄物処理場か何かだろう。つまりゴミ捨て場だ。それは一つの事実を指し示す。  不意に最後の記憶が浮かび上がる。  多分、あの時にスイッチを切られたのだろう。  その後恐らく僕はどこかの学術機関の手に渡った筈だ。そこで身体中を調べられたのだと思う。分解され、 手本として研究されたに違いない。セルフチェックの結果から核融合炉がなくなっているところを見ると、国営の学術機関に間違いない。高度な設備がなければ、あの動力炉を可動させる事は難しいだろうし、現在深刻になっているエネルギー問題を解決する鍵となる技術だ。  何よりも四次元ポケットがなくなっているのだ。これは現在のテクノロジーではその糸口すら見つかっていない。どこの国かは分からないが、いずれにしても黙って見てはいないだろう。中身の道具もきっと熱心に研究されているに違いない。裏社会に流れたという可能性もあるが、しかしあの家族は僕の道具の力を熟知している。特に彼は僕の予想を遥かに越える使い方をしていた。正義感の強い彼の事だから、やはり真っ当な学術機関の手に渡ったと考えるのが妥当だろう。あとは悪用されない事を祈るばかりだ。  屑鉄の山の一部が、がらり、と崩れた。少し大きめの塊だった。  僕は側に寄って、それをじっと見つめた。かつては忙しく働いていたであろう、一つの機械。今や完全に腐食している。何の価値もないだろう。自然と僕自身の事について考えが巡ったが、既に結論は出ていた。  きっと僕には高い価値が付いたに違いない。確かに僕は不良品として生まれたが、しかし一応は未来のロボットだ。現在にないテクノロジーが詰め込まれた、夢の機械。権利や譲渡、もしかすると道具を使って、彼らは相当な収入に恵まれただろう。 「ああ、だから…。」  これがつまり、借金を返済出来た理由だ。  そして多分、これで未来は変わるだろう。借金はおろか、莫大な富を築いたのだから、未来の子孫は安泰だろう。もしここに通信機があれば、彼の子孫は満面の笑みで僕を労うだろう。勿論確認する術はないが、そんな事は気にしなかった。僕は確信していた。  任務は完了したのだ。  こうして調べ尽くされた僕はここに捨てられ、何かの拍子にスイッチが入った。しかし僕は目覚めたと勘違いして押し入れの襖を開けようとしたが、実際は数十年の時間が流れていた、という訳だ。  おかげで予備電源に頼る事になり、解凍には苦労させられた。僕は何故かおかしくなって、くすり、と笑った。  不意に視界にノイズが走った。一層大きくなる警告音。もうすぐ、電源が尽きるのだろう。全てが終わるというのに、僕は何の感慨も抱かなかった。そもそもそういう機能がないからかもしれない。ただ平らな気持ちが僕を満たしていた。  手持ち無沙汰になって、僕はもう一度自分の顔に触れてみた。ざらざらとした基盤と、指に心地良いハーネス。ばらばらに分解しなかった所に、僕は人間の心を感じた。僕はそんな人間が大好きだ。幾つかの思い出が再生され、思わず触れる指先に力が篭もる。しかし既にそこも腐っていたのか、配線がぷつりと切れて、途端に視界がブラックアウトした。  完全な闇の中、僕は満足だった。やがてジャイロも狂い始め、バランスを失った僕はその場に倒れた。そのまま寝ころび、とうとう身体も動かせなくなった。焦る事もなく、ごつごつとした屑鉄が気持ち良かった。元に戻るからだろうか。  やがて処理が更に遅くなり、意識が混濁し始める。混ざり合い、拡散する情景。と、そこで一つの疑問が浮かんだ。  僕の頭の中も調べられたのだろうか?つまり人工知能のアーキテクチャだ。もし調べられたのなら、現在のロボット技術は飛躍的に進歩するだろう。僕を手本として、新世代のロボットが作られる。より実用的、汎用的なロボットが生まれる事になるのだ。  という事は、あと半世紀も経てば、恐らく……。  最後に僕は  あの日の彼の言葉を再生した ―了―

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todome

過去のホームページ時代より寄稿させていただいておりましたが、とある作品を完結させぬままに十数年すっかり忘れ、この度親方の号令により、再び参加と相成りました、todomeと申します。 主に小話を寄稿させておりますが、マンガ、ゲームにつきましても、今後ご紹介させていただこうかと思っております。どうぞお付き合いください。

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