大石まさる 「タイニードライブ」

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 今回は大石まさる先生の「タイニードライブ」をご紹介しましょう。大石先生は当ブログで以前にご紹介した「水惑星年代記」以来のご登場ですねぇ。もちろん他作品をほったらかしにしていたわけではなく、「おいでませり」や「ライプニッツ」など、その後も大石作品を追いかけてきました。

 どれも大変面白かったのですが、感想を書くにも某熱帯雨林において熱烈な大石ファンの皆様が隅から隅までずずずぃいと、カユイところまで手が届く感想を書いておられるので、「これは頼りになる先達に任せるが吉」と、敢えて当ブログでは取り上げませんでした(決してめんどくさかったわけではありませんよ、念のため)

 ところが、この「タイニードライブ」はなんだか非常に気に入ってしまいましい、加えて熱帯雨林のレビューを2、3件しかないという残念な有り様でしたので、あと先日2巻が出たんですが、これが完結巻というまたまた残念な出来事などから、「よし、オレが書く!書かせろ!」と、「雀荘のサエコさん」とほぼ同じ動機で、エイヤッと意を決して(おおげさ)ご紹介しようと思った次第であります。

 それでは本作の内容を簡単にお話するところから始めましょう。

 時は現代、日本のどっかの田舎町にひとりの少女「月崎すわ子」がのんびりと暮らしていました。と、そこへ玄関のガラス戸をガンガン叩く音が…。開けてみれば「ボンジョルノ♪」と見知らぬイタリア人の少女が立っておりました。彼女の「ルーミ」と名乗り、今日からすわ子の姉になると言いだしました。…慎重派の妹と変わり者でハイテンションな姉、凸凹姉妹の新しい生活が始まります…。

 …文字に起こすと意味不明だね。まぁ、いいや。ということで、物語は何事も慎重な妹、すわ子さんが、強すぎる好奇心とマンマミーアを地で行く姉、ルーミさんにグワングワンに振り回されるお話であります。

 とは言うものの、別に倒した魔物を喰らいながら地下迷宮を攻略するとか、悪魔召喚プログラムを手に東京をさまようとか、実はオタクだった美少女と恋に落ちるとか、そういう大層なシチュエーションはありません。

 物語に舞台はごくフツーの田舎町での生活で、すわ子さんは毎日、それこそルーチンワークをこなすように生活しておりましたが、ここにルーミさんがやってきたことで劇的な変化が訪れます。

 ルーミさんは「物事をちょっと別の角度から見てみる」ことの達人でして、何気ない日常を「ちょっと別の角度から見る」ことで、少しだけ楽しくするのが大好きなヒトだったのです。こうしてすわ子さんも何気ない日常を「ちょっと別の角度から見る」ことになり、そこから様々な気付きや面白さを発見していくのです。

 ここでちょっと物語の中身に触れてみましょう。

*「美味しい」ってなんだろう?

 慎重派故にいつもキッチリとした料理を作るすわ子さん。それを見たルーミさんは何故か怒髪天を衝き、すわ子さんの一番好きな料理をミキサーにかけてしまい…。

*「風流」を味わおう

 桜の季節。すわ子さんはルーミさんに連れられお花見に出かけます。花びら舞う中お弁当を食べていますと、ルーミさんが花びらが浮いたお茶を飲み干し、これは風流であると、二人は春の風流を探しに出かけ…。

*インディアンポーカー

 暇つぶしに「インディアンポーカー」を始めた二人。最初は家事当番を賭けていた二人であったが、やがて勝負は白熱し、賭け金は「ルーミさん秘蔵のオブジェ」、「千葉県」、「地球」へとエスカレートし…。

*パクパクさま

 合体事故の結果ついに神を創り出したルーミさん。今後はミチビキエンゼル神の言葉にしたがって生きていこうと心に決め、当然のようにすわ子さんも巻き込まれるが、次第に点取り占いさまのような感じになって…。

 と、まぁ、こんな感じで、エキセントリックなルーミさんのおかげで、すわ子さんのフツーの田舎暮らしは音を立てて崩壊し、代わりに微妙にジワジワ来る楽しい毎日になっていくのです。その様子は傍で見ているだけでも面白く、ついつい自分もやってみようかという気になってくるから不思議です。

 さて、このような「日常を楽しもう」というスタンスは、実は大石先生のライフワークのようなもので、先の「水惑星年代記」の外伝、「月刊サチサチ」は旅先の廃バス停に住み込んでゆったりと四季を楽しむ幸子さんのお話でしたし、「おいでませり」も天才的頭脳を持ちながら、それを出来るだけくだらないことに使い、のんべんだらりと人生を楽しむセリさんのお話でした(そういえばルーミさんは幸子さんとセリさんを合わせたようなキャラです)。

 つまり本人に楽しむ気概さえあれば、たとえ周りに何もない荒野でも面白おかしく過ごすことができ、逆にいきいきとした心がなければ、どんなコンテンツも全く意味がない、ということなのです。

 思えば大石作品の中で私が最も印象が強いのは「みずいろ」であり、この物語も夏休みを積極的、能動的に楽しもうとする高校生たちの物語でした。本作「タイニードライブ」を読んでなんだか気に入ったのも、同じようなテイスト、というか哲学が感じられたからかもしれません。

 それに加えて、本作は大石先生が本当に、好き勝手に、心から楽しんで描いているのがヒシヒシと感じられます。そもそも過去の大石作品の中で「タイニー」が付く作品、すなわち「タイニープリニウス」と「タイニーマイティボーイ」は、いわば「大石まさる・じゆうコーナー(あるいは「大石!まさるの!おまけコーナー!」)」みたいなノリなのです。

 「タイニープリニウス」は宇宙をさまよう宇宙船が舞台のドタバタコメディで、ノリ重視のストーリーテリングは非常に痛快(でも熱帯雨林にはレビューが3件しかない)。事実大石先生も、「昔のSFコメディが大好きで、それを目指して書いた。好き放題が出来るので、正直いくらでも描けます。」と仰っていました。

 また「タイニーマイティボーイ」は主人公のボーイくんが願いがかなう「スターピース」を求めつつ、恋をしては破れるという、いわば「SF寅さん」でして、毎回のヒロインが微妙に魅力的な上に話の展開がやっぱりノリ重視という妙に印象深い作品で(でも熱帯雨林にはレビューが1件しかない)、これに関する大石先生のコメントは見つかりませんでしたが、どうもひたすらバカな話が描きたかったように思えてなりません。

 で、これらを読んだ私としては、いやもう、非常に面白かったわけで(またある意味、スリリングな体験であった)、「タイニーシリーズ」の最新作とあらば、これはもう期待せずにはいられなかったわけです。

 そして本作「タイニードライブ」なんですが、おそらく、大石先生の頭に日々浮かんでは消えるバカバカしいことを余すことなく、しかも全く遠慮なくページにぶちまけたような印象を受けます。また非常に趣味的な描きこみや、やけに長いセリフの連発など、およそマンガの作法を無視した描き方(そもそも本作は4コママンガなのに、4コマの意味が全くない)をしている、つまりあまり読者を念頭に置いていない描き方なので、まず間違いなく「本人が一番面白がった」に違いありません。

 そんな「日常を面白がれ」という哲学をいわば楽屋オチスレスレで描いている本作。「タイニー」の名を冠するだけあって、大石作品の中では指折りの「バカ」であることは間違いないでしょう。やっぱ「タイニーシリーズ」は面白いね!

 とはいえ、波に乗ってしまえば最高に面白いのですが、百歩譲っても万人向けではありません。しかしこれこそが大石まさるの「タイニーシリーズ」なので、頑張ってついて来てあまり強くはオススメしませんが、こちらの試読でお気に召されたのであれば、どうぞ迷わずお買い求めください(回し者)。


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todome

過去のホームページ時代より寄稿させていただいておりましたが、とある作品を完結させぬままに十数年すっかり忘れ、この度親方の号令により、再び参加と相成りました、todomeと申します。 主に小話を寄稿させておりますが、マンガ、ゲームにつきましても、今後ご紹介させていただこうかと思っております。どうぞお付き合いください。

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