いにしえゲーム回顧録 十二回裏 「LSIゲーム(ソーラーパネル編)」

ゲーム
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 さてLSIゲームのキャラクター表示にはかなりの制限がありました。例えば液晶電卓の場合、7本の棒の点滅によって全てのアラビア数字を表現することが出来ましたが、ゲームの場合、キャラクターとその動きの数だけ液晶パターンを作らなければなりませんでした。そして一つの液晶パターンに別の液晶パターンを重ねることは出来ませんから、限られた液晶フィールドをどのようにマネージメントするか、ということになります。これはクッキー生地からどのように型抜きをすれば多くクッキーを取り出すことが出来るか、という場面を思い描いていただくと分かりやすいかと思います。

 その結果、LSIゲームはシーンがせいぜい2パターンしか設定出来ず(例えば悪霊の館の「前庭」と「館内」のように)、またキャラクターの動きも移動が左右のみだったりと、単純なものしか作れませんでした。そうなると自然とゲーム内容もそれほど奥行きを出すことが出来ず、プレイ内容も次第にルーチン化したものにならざる得ませんでした。

 そんな折、任天堂から新たなLSIゲームが発表されました。それが今回紹介する2画面液晶ゲーム、マルチスクリーンなのです。まず液晶が2画面になり、型抜き的な液晶マネージメントから解放され、1つの画面を贅沢に使えるようになったことで、キャラクターの動きが豊かになりました。しかしそれ以上の効果を2つ得ることになりました。1つは劇的な場面転換が可能になったこと、もう1つはそれぞれの液晶で別の場面を同時進行させることが可能になったことでした。これらはゲーム内容により深みを与える効果をもたらしました。今回はそれぞれの代表的なゲームを紹介したいと思います。

 

 「ドンキーコング」 (場面転換)

 毎度お馴染みのタル避けゲームですが、マルチスクリーンによる場面転換によりドラマティックなストーリー性を持つことに成功しました。ゲームは4方向キーとジャンプボタンで遊びます。このゲームは古来より下から上へと登っていく流れなので、最初は下画面で遊び、次に上画面で遊ぶことになります。それではゲームの流れを追っていきましょう。

 

 まず下画面左下がスタート地点です。鉄骨迷路最下層を右に進んでいきますが、ここでタルが転がってきて行く手を阻みます。さてアーケード版ではどこででもジャンプしてタルをかわす事が出来ましたが、今回は頭上の鉄骨が邪魔でジャンプできる場所が限られています。スタート地点と上へと続くハシゴの一歩手前でしかジャンプが出来ないのです。これによりせっかく前に進んだのにジャンプするためにスタート地点に戻らなければならないこともあります。ですから転がってくるタルの全体状況を把握する必要があり、ある種アーケード版よりもむつかしいかもしれません。

 さてハシゴを上って第二層に上がると今度は左へ進んでいきます。今度は頭上は開けていますが、時折クレーンに釣られた鉄骨が右から左へと流れていて、ジャンプした時にこれにぶつかるとミスになってしまいます。これにより、安全にジャンプするために一歩戻ったり、最悪最下層に戻らなければならない場面も多々あります。ですからここではタルの全体状況に加え、鉄骨の運行状況も視野に入れなければならず、難易度が高いと言えます。

 これらをクリアし、第二層左端のハシゴを登ると下画面パートは終了します。そのまま上画面の左下に移動するのですが、ここで場面は鉄骨の最上階となります。遠目には高層ビル群が見えて、何だか相当高い所に来てしまった印象をプレイヤーに与えます。実際、閉塞感のある下画面の鉄骨迷路を体験した後ですから、プレイヤーは相当な広さを味わうことになります。この「高さ」と「空間」いう印象を更に盛り上げてくれるのが、上画面でギミックなのです。

 

 上画面左下ではプレイヤーがハシゴにつかまっています。しかしそのすぐ脇からコングの放り投げてきたタルがこちらに向かって転がってきているので、急いで登り切らなければなりません。頂上に着くと、頭上の鉄骨にはコングがタルをブン投げて大暴れしていて手の付けようがありません。しかしよく見るとこの鉄骨、右端のクレーンのフックに4つのボルトで簡単に吊り下げられているだけのようです。上手くあのボルトを全て取り除くことが出来れば、あるいは…?しかし高すぎて届きそうにありません。ところが画面右端にもう一台クレーンがあります。そして画面左端にはレバーがあります。試しにレバーを上げてみると(方向キー左)クレーンが上昇しました。あのフックに飛び移ればボルトに届きそうです!

 そんなわけで、上画面ではまずクレーンを起動させ、そのままコングの投げるタルの雨を避けつつ右へ走り、上昇したクレーンのフックへ大ジャンプすればクリアとなります。しかしこのクレーンには安全装置でも付いているのか、タルの雨の前でモタモタしていると、一定時間後に下降してしまいます。ですからクレーンを起動したら一気にフックへジャンプしなければなりません。しかもこのフックが左右にユラユラ揺れていますから、こちらに近づいた時にジャンプしないといけません。もし失敗すると高層ビルと同等の高所から真っ逆さま…!とはならず、すぐ下の鉄骨に脳天をぶつけてミスになります。首尾よくボルトを引き抜くと、再び下画面の左下からスタート。計4回ボルトを引き抜くと鉄骨が崩れ、コングが墜落してオールクリアとなります。

 

 この「クレーンのフックへ大ジャンプ」が非常にドラマティックで、映画のクライマックスのような場面と言えます。先述したようにプレイヤーは上画面に到達して「高さ」と「空間」を味わっていますが、そのおかげで高所から虚空へのいちかばちかジャンプはモノスゴいスリルとして印象付けられます。それが更なる「高さ」と「空間」を感じることに繋がり、恐怖感はウナギのぼりです。このように、下画面では「閉塞感」を演出することで、上画面での「高さ」と「空間」に対する恐怖感が強調されるのです。また同時に「下から上に登っていく」というドンキーコングのストーリー性を非常に上手く演出出来ていると言え、下画面と上画面を大きく場面転換することで得られた演出だと言えるでしょう。

 

 「オイルパニック」 (同時進行)

 このゲームの左移動ボタンと右移動ボタンだけで遊びます。舞台はとあるガソリンスタンドです。一階はガソリンスタンド店舗で、二階、三階は居住スペースになっているようです。しかしどうやらオンボロ欠陥住宅だったようで、三階天井の配管が相当やられているらしく、ひっきりなしにオイルが漏れてきています。

 それだけなら良いのですが(良くはないか)、オイルが滴り落ちる下にはガスコンロがあり、ボウボウと火が点いているではありませんか!このままではオイルに引火、火災が発生してしまいます!それだけなら良いのですが(良くはないって)、思い出してください、一階はガソリンスタンドです!火災になれば一気にガソリンスタンドまで延焼し、大爆発!巨大なクレーターの周りに「NEO TOKYO」を作る事態になりかねません。

 という訳で、プレイヤーは左右に移動して、天井から垂れてくるオイルをそこらへんのバケツで回収することになるのです(あくまでもコンロの火は消さない方向で)。

 しかしこのバケツ、思ったよりも小さかったようで、オイルを三滴受け止めると一杯になってしまいます(多分オイルの滴が一斗缶並にデカいんでしょう)。この状態で受け止めようとすると、溢れてしまってもちろんミス。どこかに捨ててこなければなりません。

 ここで下画面の相棒の登場です。下画面では相棒がデカいドラム缶を抱えて二階ベランダでウロウロしています(命名:ドラム缶さん)。そこでこのドラム缶さんが窓の真下にいる時を狙って、左右の窓からバケツのオイルを捨ててください(窓際で窓方向へ移動しようとすれば捨てられる)。間違ってドラム缶さんがいない時に窓からオイルを捨ててしまうと、下にいるガソリンスタンドのお客さんに頭からぶっかけてしまい、えらい剣幕で叱られます。でも叱られるだけで、ガソリンスタンドが爆発するわけではないのがせめてもの救いです。

 

 以上のように、プレイヤーは三階で火事を起こさないようにオイルを受け止め、上手く二階のドラム缶さんに受け渡すことが目的となります。そしてお分かりのように、上画面と下画面で描いている場面が違います。上画面ではガソリンスタンド三階の居住スペースを、下画面ではガソリンスタンドの全景を描いています。そしてそれぞれの画面でそれぞれの状況が独立して同時に進行しており、プレイヤーはそのどちらの状況も把握していなければなりません。

 このようなパラレルな進行はプレイヤーにいわゆる「ダブルタスク」を強いることになるわけで、自然と高い難易度となります。しかしこの同時進行はいたずらに難易度を上げることだけを目的にしたわけではありません。プレイしてみてまず気付くことは、ドラム缶さんが相当トンチキであることです。というのは、なにもベランダをウロウロしなくても、左右どちらかの窓の下で待機していれば、こんな面倒は起こらないからです(そんなこと言ったら、コンロの火を消さない三階のプレイヤーも相当トンチキですが)。

 しかし実はこのドラム缶さんのトンチキさは、上手くオイルを渡した時の達成感を生み出すことにも繋がっています。もっと言えばドラム缶さんとの強い一体感を味わうことが出来るのです。今でこそゲーム内のキャラクターに感情移入することは珍しくもありませんが、しかしこの時代にキャラクターに共感出来るというのは非常に価値があることです。そしてこの一体感は、上下で別々の行動をしていたものが、ある瞬間カッチリと噛み合うということで生まれることを忘れてはいけません。つまり独立した同時進行が、結果的に強いシンクロ感を演出したと言えるわけなのです。そしてシンクロした時にカタルシスが強い分、上手くかみ合わなかった時のモヤモヤというかイライラ、具体的にはドラム缶さんへの不平不満はより強いものになります。しかしその不満が次の成功体験をより輝かしいものにしているという点もまた事実なのです。

 

 このように、マルチスクリーンは2つの効果を生み出すことに成功しました。とは言え、やはりドラム缶さんへの憤りは相当のものだったのか、以後のマルチスクリーンは場面転換やプレイフィールドの拡張の方向へと使われるようになり、同時進行の役割はオイルパニック以降は無かったようです。

 その後ファミコンなどの家庭用ゲーム機が開発されたことで、LSIゲームは急速に衰退しました。しかししばらく後、そのスピリットを受け付いたゲームマシンが登場します。ゲームボーイ(GB)をはじめとした携帯ゲーム機です。そしてかつてのLSIゲーム達は時を超え、様々な携帯機に復刻されるのですが、それはまた別のお話です。

 この他にも様々なLSIゲームが存在しましたが、しかし紙面が尽きてしまいました。またの機会といたしましょう。

 

 それでは十三回表でお会いしましょう。

 


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todome

過去のホームページ時代より寄稿させていただいておりましたが、とある作品を完結させぬままに十数年すっかり忘れ、この度親方の号令により、再び参加と相成りました、todomeと申します。 主に小話を寄稿させておりますが、マンガ、ゲームにつきましても、今後ご紹介させていただこうかと思っております。どうぞお付き合いください。

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