時は空前の格ゲーブーム。どこのゲーセンにも何種類もの格ゲーの対戦台が設置され、連日大変な賑わいでした。この状況で「よし、オレも一山当てたいぜ」と考える輩がいても不思議ではないわけで、つまり新しいゲーセンがあちこちに出現していたのです。もっともそういう意図で開店しているわけですから、ラインナップはもちろん格ゲー中心。ですから「新しいゲーセンが出来た!」と話を聞き、早速来店してみても、実際私のには特にやるものがなかった場合が多かったのです。
さてその日も「駅の南側の商業ビルの7階に新しくゲーセン『××』がオープンする」という情報を聞きつけた我々「キャロット野郎」は、チャリンコを走らせ、連絡通路を走り、件の商業ビルに向かいました。そしてエレベーターで7階に到着すると、まず目の前に現れたのは「某大手アニメショップ」で、大層な盛り上がりでした。実際、ここがこの店の県内初出店で、ゲーセンと共にこのフロアの目玉であったようです。ここで「とにかくゲーセンに向かう班」と「オレはアニメショップも見に来た班」の二手に分かれ、私はゲーセン班と共に店内に入りました。
店内はこれまでのゲーセンとは違い、ことのほかプライズゲーム(UFOキャッチャーとか)が多く設置され、景品もアニメキャラのグッズが多かったです。やはり隣がアニメショップですから、買い物の帰りの客を当て込んでのチョイスだと思います。そして肝心のビデオゲームはやはり格ゲーの対戦台が多く、他は定番とも言える落ち物パズルがほとんどを占めていました。後は大型のエレメカ(バスケットボールをゴールの投げ込むゲームとか)が設置されていましたが、結局私が遊ぶようなゲームはありませんでした。一応「まぁせっかく来たんだから」と「リッジレーサー」を数回プレイしましたが、正直「ここにはあまり来ないだろうな」と思ったのでした。
しかし数か月後、私はキャロット仲間の一人と「××」を訪れていました。理由はここが気に入り、ちょくちょく通っていた仲間の一人から恐るべき情報を入手したからです。曰く「がんばれギンくん」が入った、と。
当時の最先端アーケードゲーム誌「ゲーメスト」(芸術的誤植が多いことでも有名)においてこのゲームの記事を見た我らは衝撃を受けました。「バーチャファイター2」や「鉄拳2」など、ポリゴン技術の進化激しいこの時代、何故キャラクターが線画のラクガキなのか!?そして複雑なシステムが主流のゲーム業界の中、ミニゲーム集でしかも「肥溜めをジャンプする」というのはどういうことなのか!?我々の間では全くの謎(主に開発者の頭の中が)のゲームとして認知されていたのです。
その恐るべきゲームが入荷したというのです。これは行くしかありません。大慌てで仲間の一人と「××」を訪れた私は禁断のゲームを探し、ついにソレを見つけました。
汚ねぇ線画のキャラクターが妙にノリの良いマンボのリズムの中、デモを行っています。線画のキャラクターが満面の笑みで首がスッ飛んだり、筆を持ってドヤ顔をしたり、正直何のデモだか分かりません。そしてそのままキャラクター紹介へ突入。
ガキが踊り狂っています。
「ギン(よい人)」
よく分からない生物が踊り狂っています。
「ハム(よいカエル)」
ツリ目の人が包丁を両手に持って暴れています。
「ガツガツ(ワルモノ)」
「ゆかいなゲーム もりだくさん おすきなゲーム えらんでね」
(シュールな看板絵と共に)
…えー(非画太郎風)。視線が完全に飛んでしまい、もはや画面からは狂気しか感じない我ら。これは話に違わぬ相当なものだと分かりました。もはや座りションベンも辞さない覚悟です。しかしタイトル「がんばれギンくん アクションミニゲーム集」と出ますと「ああ良かった、ミニゲーム集で間違いなかった」と、変な安堵の溜息を吐く我ら。というのも、丁度キャロットで「タントアール」をやり狂っていた我らはミニゲーム集の勝手を知っていたので、ミニゲーム集と確認出来た途端、ギンくんは「狂気のゲーム」から「ちょっと雰囲気のおかしいゲーム」になったのでした。そしてその油断から、中坊の私は浅はかにもコインを投入してしまったのでした…!
まずはコース選択画面。かんたん、ふつう、きついの3コースがあります。コースによってストーリーが違うようですが、タイトルが「ゲキトーTV」とか「どんまい学園」とか「緊急出動!ぶらり旅」とか、内容が全く見えません。まぁ最初だからかんたんコースにしよう、ということで「ゲキトーTV」で決定します。
ワルモノ「ガツガツ」がマイクを持ち、司会を始めます。
「さー、いよいよ始まりました、ゲキトーTV『The つらい』!」
…どうやら視聴者参加型のゲーム番組のようです。果たしてガツガツが「早速最初の商品を選んでもらうガツ」と進行します。商品は2種類あります。「24Kのネックレス」「ミンクのコート」です。どちらも高価な物でしょうが、ゲームなのでどっちでも良いです。なので考えなしに「24Kのネックレス」を選択。いよいよゲームスタートです。
先程のシュールな看板絵が4枚並んでいます。で、汚ねぇ字で「ノルマはあと2」とあります。つまり2つゲームをクリアすれば良いようです。さて、どのゲームを選ぼうか…という以前に、どの看板もどういうゲームなのかをまるで示していません。インストカードにも載ってません。仕方ないのでゲーメストで見た「オレとジャンプとメタンガス(ひと昔前の頭痛薬みたいな絵)」を選択します。
ギンくんが煙草をふかしているところへ、ガツガツが激昂激怒してやってきます。バイオレンスな世紀末感が香る、いきなりのハイブロウな展開です。そしてルール説明。
「レバーをカチャガチャしてパワーを溜め、こえだめの前でボタンでジャンプだ!」
…うわぁ、本当に肥溜めだ。その上、線画のレバーに「ガチャ(手書き)」、線画のボタンに「とぶ(手書き)」、その横に肥桶担いだ人(やっぱり線画)が歩いています。この迸る手作り感は何でしょう。逆にうれしくなって来るから不思議です。そんな呆れ返っている我らにガツガツが一言。
「追いつめて追いつめて こえだめに落としてやるガツ!」
…うわぁ、冷静に狂った怖いこと言ってるよぅ。やっぱりワルモノだけあるよぅ。恐れ慄く我らですが、ウンコまみれになるのは(ゲームの中とは言えども)嫌なので、目は真剣です。ともあれ「ゴゥ」の掛け声と共にスタートです。
ギンくんがガツガツから逃れようと走り出します。慌ててレバガチャをする私。横で冷静に見てる仲間。ガチャガチャガチャガチャガチャ!アッ、踏切線だ!ここでボタン一発ジャンプ!下の肥溜めの絵の線が黄色です。ヒラリとギンくん、向こう岸に無事着地です。遅れて肥溜めに頭から突っ込むガツガツ。間抜けなファンファーレと共にステージクリアです。
…こいつぁマジでえらいゲームを見つけちまったぜ。中坊の想像もつかない世界を見せつけられ、ある意味己の無力を痛感させられた我らですが、ゲームは待ってくれません。問答無用で次のゲームを選べと言ってきます。再び先程のシュールな看板絵が4枚並んでいます。クリアした「オレメタン」はなくなり、代わりに「牛と赤マント」というゲームが追加されています。明らかに「牛肉部位表」的な牛を多分闘牛士がひらりとかわす、やっぱりシュールな絵です。これにしよう。これに決めた!
画面奥から赤線画の牛(っぽいもの)が突進してきます。線画レバーには左右の矢印だけ、線画のボタンには「よける(手書き)」、その横に間違いなく何人か殺している牛が睨みつけています。そしてルール説明。
「レバー左右で向きを変え 『オーレ』がでたらボタンでよけよう!」
…なんだ「オーレ」って!?あの闘牛士の掛け声か!?困惑する我らにガツガツが一言。
「オレサマの牛は狂暴ガツ! やられちまえガツ!」
なんか殺る気マンマンだよぅ。ていうか、お前ホントにテレビ番組の司会者か!?そして問答無用でゲームスタート。
闘牛士に扮した(と言ってもそれっぽい帽子をかぶっただけ)ギンくんが登場。ちゃんと持っているマントが赤線なのがニクイですね。さて頭上に「オーレ」の吹き出しが点滅し、「ここ大事」と矢印で注意を促します。と、次の瞬間、真っ赤な牛が突進してきます。さぁ、近づいてきまして、出ました「オーレ」!ボタンをプッシュ!しかし何故かギンくんの首が吹っ飛びました。どうやらタイミングが遅かったようで、しばらくして上空から首が落ちてきて胴体と合体。
「だめでした」
と異様に冷静に失敗を指摘されます。クリア失敗。しかし我らは一瞬で過ぎ去った今の出来事を未だ掴めずにいたのでした。
…その後も不条理かつバイオレンスなゲームをプレイし、具体的には爆弾をオシッコで消し、ゾンビを木槌で殴り、ひろみの合図で大砲をブッ放し、もう一回肥溜めをジャンプしたりしました。そして何回かのコンティニューの後、我らはめでたくかんたんコースをクリアしました。
エンディングを眺め、そこでも衝撃の展開を目の当たりにし、そして席を立った我らは無言のまま、真っ直ぐエレベーターへと向かいました。降下の最中、私達は言葉を交わしました。
「ふつうコース、やる?」「…いや、どうだろう。」
中坊の我らには、ギンくんの世界はあまりにも広大であり、それはさながら…いや、上手い言い回しが出てきませんが、そういうことだったのです。
とかなんとか言いながら、しかし我らは思い出したように「がんばれギンくん」をプレイし続けました。ある種中毒になっていたと言っても過言ではありません。いや、ここで「ギンくん」の話を延々をしている以上、どうして中毒でないと言えるでしょうか。いや、言えない。(反語)しかしふつうコースをやってみると、かんたんコースとは明らかに難易度が違っていたので、我らはいつもかんたんコースをプレイしていました。そして「ギンくん」のデタラメな世界を存分に堪能し、強烈に私の記憶に焼き付けられたのでした(良い意味で)。
そのうち「ギンくん」は消え(やはりあまりにもシュール過ぎたと言える)、ゲーセン「××」もなくなってしまいました。ですからストーリーの顛末は「The つらい」しか知りません。「どんまい学園」はギンくんとハムがひたすら悪さするだけで、オチは知りませんし、「緊急出動!ぶらり旅」に関しては意味不明のままです。しかし正直、エンディングを見たいような見たくないような、そんな自分がいるのでした。
それではまた、十七回表でお会いしましょう。
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