さてクレイジータクシーがゲーセンに登場した頃、私は何をしていたかと言いますと、メダルゲームにどっぷり浸かっている最中でした。というのもクドいようですが、当時は格ゲー全盛の時代。私が楽しめそうなゲームはほとんどなく、それでもゲーセンの空気に触れたいのですから、これはもう立派なゲーム脳ですが、ともあれ運さえよければ結構もつ(逆に言えば運が悪ければ一瞬で終わる)、メダルゲームにハマっていたのでした。ですから、それでなくとも大型筐体には近寄りもしなかった私でしたから、クレイジータクシーの存在など、全く知らなかったのです。
そんな私でも生意気にゲーム雑誌には目を通していて、ゲーメストはもちろん、ファミ通もよく読んでいました(ちなみに私は今でも「ファミ通町内会」の4コマコーナーが大好きです)。そのファミ通の記事で、私は初めてクレイジータクシーの存在を知ります。しかしいかんせん紙媒体、したがって画面の様子は写真でしか分かりませんから、初めて記事を読んだ時はそのどうかしているゲーム内容が微塵も伝わらず、結果「…フツーのレースゲームみたいだな」としか思いませんでした。
さて数年後、PS2を購入した私は、何か良いゲームはないかと、とあるゲームショップを物色していました。そして棚にやけに黄色いパッケージのゲームを見つけます。そう、クレイジータクシーです。私は引き寄せられるようにパッケージを手に取りました。そして裏のゲーム説明を見て、ファミ通の記事を思い出します。
そういえば、昔このゲームの記事を見たな。どの雑誌もやけに盛り上がっていた気がする…。しかし、このパッケージ裏の説明を読むと、どうもおかしなゲームらしい…。そんなことを思い、取りあえずやってみるかと、私はそれほど迷うことなく、レジに持って行ったのでした。
恐らくファミ通とかで見た、下り坂で空を飛んでいるタクシーの写真が脳に刷り込まれていたのでしょう。あの時の私は、うっかりバカ臭を嗅ぎ取ったのです。そうでなければ、金のない学生が迷いなく購入を決めることなど有り得ません。しかし当時の私はそんなことには気が付かず、家路に着いたのでした。
早速PS2を起動してゲームスタート…、しないのが私でして、まず飯を食い、安チューハイを飲みながら説明書を読み始めます。私はどんなゲームでも、まず説明書をアタマからシッポまで、くまなく読むのです。アーケードの移植作など、操作方法を熟知していても、説明書を読みます。なんというか、説明書もゲームの一部のような気がしますし、操作方法を半端にして、途中で説明書を確認するためにゲームの流れが中断されるのが嫌なのです。ですから「バベルの塔」の時は、本当にいろいろしんどかったです。
ともあれ、「ギア…、ダッシュ…」とブツブツ言いながら説明書を読み終え、ようやくPS2を起動させます。タイトル画面が表示され、「PUSH START」とか出ますが、私はすぐには始めません。デモを見るのです。というのも、デモでゲームのバックグラウンドを説明されることもありますし、デモプレイでゲームの大体の雰囲気が掴めるからです。またデモとはいえ、考えられないバカプレイが繰り広げられている(自機が敵機に突っ込む、など)のを眺めるのも好きです。
で、デモが始まり、私はバカのように口を開けたままになりました。ジャンプするタクシーがカフェに突っ込み、立体駐車場の2階から飛び出し、階段を駆け上がり、崖から落ち、高速を逆走し、ショッピングモールを爆走する!(歩行者は見事に避ける)それらのアクションが激しいロックに合わせて展開され、ミュージックビデオのようにカッコいいのです。そして再びタイトルに戻った時、私は今更ながら「大当たりを引いた」と確信したのでした。
さぁ、いよいよゲーム開始です。まずはアーケード版の移植である「アーケードモード」で遊んでみます。まず4人のドライバーから1人を選ぶのですが、性能差があるのかないのか分からんので、取りあえず緑の髪のにーちゃんで決定。「Here We Go!」でスタートです!
乗客は頭の上に$マークが浮かんでいるので、すぐに分かります。また$マークの色で目的地までの距離も分かる親切設計です。早速目の前のオレンジ(距離:やや近い)の前に停車し、乗車させます。「ケーブルカー駅まで行ってちょうだい!(英語)」とのことなので、早速クレイジーダッシュで急発進!コマンド入力が苦手な私でも、結構簡単にクレイジー技が出せます。
タクシーの頭上に矢印が出現。この方向に目的地があるのです。路上は車が一杯ですが、交通法規を守る必要がないので、反対車線や歩道を走行。「キャー!」とか「ヒヤー!」とかの叫び声を尻目に、電話ボックスを火花散らして轢き飛ばします。すると目の前にケーブルカーが止まっている広場を発見。周囲に緑の枠が出現し、この中に止めろと促します。早速クレイジーストップをかまし、つんのめりながら急停車。「SPEEDY」とのお褒めの言葉をもらい、まずは大成功。次の客を探します。
広場の隅にオレンジの$マークが浮かんでいるので、その横へやや轢き気味に停車。「アンタ、アタシを殺す気かい?(英語)」と罵られた後、今度は「ケーブルカーの下の駅へ行ってくれ(英語)」と言われます。下?と首を傾げながら発車すると、道が下り坂になっています。なるほど、この坂の下に駅があるのか。果たして矢印も坂の下方向を指しています。
早速坂を下ると、タクシーの速度が速すぎるのか、意に反して飛んでしまいます。「ヒャッハー!」と客は大はしゃぎで、チップがモリモリ増加。そのままフルアクセルで坂を飛び降り、しかし誤ってケーブルカーに激突。でも全くもって平気という、まるでナイト2000のように丈夫なタクシーです。しかし客は怒っているので、慌てて下の駅に到着。今回も「SPEEDY」で大儲けです。
その後も客を乗せては目的地まで爆走し、途中はしご車があったので、乗ってみると案の定飛べます。またケンタッキーフライドチキンへ運ぶ時は、間違って店の看板に正面衝突しましたが、むしろこの方がより急停車出来て便利なことが分かりました。そして鉄道駅や野球場、ハイウェイを突っ走って(もちろん反対車線)、高層ビルが立ち並ぶアップタウンに出ました。
しかしこのアップタウン、目的地が複数ある上に、似たような地形が続くので迷ってしまいました。目的地を示す矢印は直線距離方向を指すので、例えば目の前のビルの向こうを指されても、そのまま真っ直ぐには行けません。ここで思いのほかタイムロスをしてしまい、運よくアップタウンの外へ向かう客を拾うと、大慌てで発進。結局目的地である消防署に辿り着けず、ゲームオーバーです。
うーん、イイ!交通法規を守らないだけで、こんなに楽しいのか!いや、これまでのレースゲームも交通法規はなかったけれど、ここまで徹底的に守らないのは、むしろ清々しいね!後半なんか「ウヒャヒャヒャヒャ」と笑いながらプレイする始末でした。初プレイですっかり魅了されてしまった私は、そのままもう一回、もう一回と繰り返しプレイし続けました。
そしてふと気が付くと、日が変わる直前でした。かれこれ5時間程、ぶっ通しでプレイしてしまったようです。しかしまだプレイしたい自分がいることに驚きました。「これは恐ろしく中毒性の高いゲームだ。最悪、身を滅ぼすッ…!(もう滅ぼしている)」そう悟った私は、歯を食いしばって電源を落とし、風呂に入って床につきました。しかし案の定、目を瞑っても黄色いタクシーが宙を飛び続け、歩行者は「キャー!」「ヒヤー!」と華麗に身をかわし、そして迷路のようなアップタウンが延々と続いているのでした(つまりうなされた)。
さて数日間、サルのように遊び倒して分かったことは、
・この街はリング状の造りになっていて、道なりに進み続けるとスタート地点に戻る
・客を拾う時に轢きかねない勢いで近付くと、客が逃げてその分タイムロスになる
・逆走する方向へ行く客を拾うと、長い目で見るとタイムを損する
・客の目的地は決まっている
・目的地で停車する時は、ブレーキよりも建物に斜めにぶつけて停車した方が速い
・停車する時は、次の進行方向を考えて車体の向きを調整する
・あまりに遠い目的地は、逆にタイムを損する
ということでした。つまりこの街はデカいサーキットであり、なるべく寄り道や逆走しないように客を拾っていくと良いわけです。それで、停車時は建物にぶつけるのが良く、出来れば次の進行方向へ車の鼻を向けるように、上手くドリフトを駆使して停車出来ればベター、というわけです。
これを心掛けるために、「10分間モード(タイムが残り10分で固定され、回復しない)」で練習を重ねます。やがてどの客がどこへ向かいたいのか、目的地のどの部分にぶつけると止まりやすいのか、そしてこの街の地形が頭に入ってきました。するとアーケードモードでの1プレイ時間も伸び、結果売り上げも上昇しました。
このような目に見える形での上達は、私のプレイ意欲をさらに掻き立て、アーケードモードでかなり長い時間遊べるようになりました。また合間にミニゲーム集「クレイジーボックス(概してバカゲー)」を遊ぶことで、タクシー操作のコツも掴み、どんどん上達していきました。
さて、大体アーケードモードはやり込んだと考えた私は、家庭用オリジナルコース「オリジナルモード」に挑戦することにしました。早速スタートし、数分後…、
「ココ、どこ!?」
…私はすっかり迷子になっていました。そう、オリジナルモードのコースはリング上ではなく、クモの巣のように複雑に入り組んだ構造になっていたのです。頭上の矢印を見ても、よく分かりません。マッピングするにも道路が複雑に曲がりくねり、ウィザードリィーのように簡単にはいきません。本当のクレイジータクシーはここからが本番なのでした…!
あぁ、また長くなってしまった。続きます。
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