今回ご紹介するのはナムコレーシングゲームの金字塔「リッジレーサー」です。このゲームが発表された1990年前後、アーケードゲーム業界ではポリゴンが導入されはじめ、主にセガとナムコがトップを走っていました。例えばセガなら「バーチャレーシング」やメガヒット作の「バーチャファイター」もこの時期でしたし、ナムコなら「ギャラクシアン3」や「ソルバルウ」がリリースされていました。
さてこの頃のポリゴンゲームには表面に何の絵柄もなく、単色の平面が組み合わされた多面体であり、乱暴な言い方をすれば細かい積み木を組み合わせてキャラクターを表現していました。ですから確かに立体的な動きは表現出来たのですが、しかし単色ですので質感が今ひとつでした。そこへ導入されたのが「テクスチャーマッピング」という技術です。
テクスチャーマッピングは平たく言えば壁紙のことで、単色ポリゴンの表面に画像や模様を張り付けることで、質感表現が飛躍的に向上するのです。加えてテクスチャーマッピングを用いれば、少ないポリゴン数(積み木の数)でもリアルな造形が可能なります。これはポリゴン表示計算が簡単になるということですから、より速く細かい動きを表現することが出来るわけです。まさに素早いレスポンスが求められるゲームにはうってつけです。現在では当たり前の技術ですが、当時は最先端の技術でした。これをゲームに初めて導入した作品が「リッジレーサー」なのです。
それまでのレースゲームは「ラスタースクロール(異なる速度で水平方向にスクロールさせることで奥行きを表現する手法)」を使用した疑似3Dでしたが(例えば『ファイナルラップ』や『アウトラン』など)、ポリゴンとテクスチャーマッピングによって、完全な3Dのサーキットを作ることが可能になりました。それは限りなくリアルなレース体験を約束してくれるのです。
実際、それまではプログラムの関係上、コース上を左右に移動するくらいしか出来ませんでしたが、ポリゴンならばコースへの進入角度に対応したラインを表現できます。また敵車にぶつかると爆発するかスピンするかの単純な表現でしたが、ポリゴンならしっかりと衝突の状況を表現できます。さらにこれまでは順走しか出来ませんでしたが、何しろサーキットをまるまる3Dで作っちゃったので逆走も出来るのです。
このように、ポリゴンによるレースゲームはこのジャンルを飛躍的にリアル志向へと向かわせ、やがて「グランツーリスモシリーズ」へと繋がっていき、また他のジャンルにもポリゴンは用いられ、現在のオープンワールドゲームへと繋がることになるのです。しかしリッジレーサーはちょっと違いました。それは追々お話するとして、早速リッジレーサーのストーリーからご紹介しましょう。
「アメリカ東海岸から西海岸までの高速道路で繰り広げられる世界最大のレース、『キャノンボール』。交通ルール、制限速度も完全無視のこのレース、早速命知らずのマクガイバーたちが集結する。やがて真夜中、レースが開始されるが、早速パトカーが追ってくる!予測不能の暴走レース、果たして栄冠は誰の手に…?」
…間違った。コレ、映画「キャノンボール」のストーリーだった。えぇと、リッジレーサーにはストーリーはありません。まぁ、「どいつもこいつもぶっ飛ばせ!」といったところでしょう、多分。それではシステムの紹介へと移りましょう。
操作系については実車と同じなので割愛(アクセルを踏むと加速して、ブレーキを踏むと減速する、という当たり前の仕様。ちなみに6速まである)。ゲームモードの説明からいたしましょう。モードは4つ存在し、13台が競い合うレースモードである「初級」「中級」「上級」と、CPUカー1台とタイマン勝負のタイムアタックである「T.T」があります。レギュレーションは以下の通りです。
初級:ショートコースを2周、最高速度は160km/h
中級:ショートコースを3周、最高速度は200km/h
上級:ロングコースを3周、最高速度は200km/h
T.T:ロングコースを3周、最高速度は220km/h
初級、中級の舞台であるショートコースは、市街地からトンネル、山道、海岸線を通り、郊外から再びトンネルを通って分岐点を直進、市街地に戻って来るコースです。上級、T.Tの舞台であるロングコースは、途中までショートコースと同じですが、郊外からトンネルを出た後の分岐点を左折、工事現場を抜け、そのまま峠へ向かい、市街地に戻ってくるコースとなっています。
モードを選んだら、次はギアの選択です。オートマチックかマニュアルかを選択できます。オートマチックはシフトレバーを使わなくて済みますが、マニュアルに比べて若干最高速度が遅く設定されていますので、コースレコードを狙うのであればマニュアルに慣れることが不可欠となるでしょう。
さてレースゲームには大抵制限時間が設定されていますが、リッジレーサーにももちろんあります。ショートコースなら2か所、ロングコースなら3か所、チェックポイントがありますので、制限時間内にここを通過しなければなりません。首尾良く通過できれば制限時間が加算され、レースを続行することが出来ます。そして制限時間が0になる前に規定周回数を走り切ればクリア、となります。1位になればウィニングランが見られます。もちろん、制限時間が0となってしまうとリタイアとなり、ゲームオーバーです。
と、ここまで見るとごく普通のレースゲームに見えます。しかしリッジレーサーの最大の特徴はドリフトにあります。このゲームは非常にドリフトしやすい設定になっていて、急カーブはグリップ走行でも抜けられますが、そもそもドリフト走行で走ることが前提となっているような制限時間設定になっています。ですからドリフト開始、車体制御、カウンターステアの一連の流れを覚える必要があります。
とはいえ、ドリフトのやり方は非常に簡単です。「減速 → ステアリング → 加速」をすれば、ドリフトを発動出来ます(もっともある程度のスピードが出ていなければなりませんが)。あとは上手くカウンターをあてて車体が滑り過ぎないようにすればよいのです。しかしコースレコードを狙おうとすると、最小限のドリフトと効果的なカウンターが要求されるので、かなりデリケートな操作が求められるのです。
さて、リッジレーサーはポリゴンを使用したことにより、非常にリアルな車の挙動を再現しました。が、リッジレーサー以前にも既にポリゴンを使用したレースゲームが存在していました。それはセガの「バーチャレーシング」やアタリの「ハードドライビン」で、これらのゲームはストイックに「実車の挙動の再現」をしようとしていたと言えます。
リッジレーサーもまた「実車の挙動の再現」をしていましたが、そこにゲームとしての面白さを加えました。それがドリフトです。リッジレーサーは敢えてドリフトしやすい設定にしたことで、誰でも手軽にドリフトの爽快感を味わうことが出来るようになったのです。あくまでもゲームとしての楽しさを追求したその姿勢には、老舗ゲームメーカーとしての心意気を感じてなりません。
それはBGMにも言えることで、「バーチャレーシング」や「ハードドライビン」がひたすらエンジン音とスキール音が流れていたのに対し、リッジレーサーは軽快なテクノを採用しています。それも6曲も選択可能で、どれもスピーディな曲調のものばかりで、殺伐としがちなレースの雰囲気を開放感溢れたドライブ気分へと変えています。そしてどの曲もレース展開に非常にマッチしていて、深く印象に残る名曲ばかりです。
結果、リッジレーサーは大ヒットし、PSに移植され、その後はPS2やPSP、PS3にも移植されていきました。そして他のポリゴンレースゲームがリアル志向へ向かう中、リッジレーサーは「走って楽しい」というゲーム性を優先していき、「リッジシリーズ」という確固たるジャンルを作り上げたと言えるでしょう。しかし初代、しかもアーケード版は現在はプレイ困難と思われますので、こちらで軽快なドライブ体験を味わっていただければと思います。
さて、この手の大型筐体は1プレイ100円と相場が決まっています。中坊の私はこの大金を払えたのでしょうか?六回裏に続きます。
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