小坂先生の「新婚よそじのメシ事情」の回にお話しましたが、私は四コマ漫画家の重野なおき先生の大ファンです。どうして大ファンになったかは上記の記事にお任せするといたしまして、最近の重野先生は「信長の忍び」をはじめとする、歴史ギャグ四コマに精力を注がれております。
確かに「信長の忍び」はベラボウに面白いですし(千鳥ちゃんと帰蝶さまがかわいい)、伊達正宗を取り上げた「正宗さまと景綱くん」では正宗さまの料理狂いっぷりに非常に共感でき、日々新しいレシピを模索する活力となっております。
…が、そもそも私が重野先生のファンになったのは歴史ものからではなく、ごくフツーの現代劇「グッドモーニングティーチャー」からでしたし、ズブズブと深みにはまっていったのも、「たびびと」や「ひまじん」など、ことごとく「重野現代劇(造語)」が面白かったからであります。そんな「重野現代劇ファン」からしますと、歴史ものの連載が忙しくなって、重野先生があまり現代劇を描かれなくなったのは少々寂しい想いがあります。
しかし!そこへ!何を思ったのか!重野先生は急に現代劇を始めました(と言っても四年前のことですが)。それが「雀荘のサエコさん」でありまして、この度四巻が発売されましたので、あと熱帯雨林のレビューが一件しかないし、ネット上には本作のレビューがまるでない事態に憤りを感じまして、「んだばオレが書いちゃるわい!」と、今回ご紹介することにしました(使命感)。それでは簡単に本作品の概要からご紹介いたしましょう。
時は現代、凍るに狂うと書いて凍狂東京は新宿の雀荘「ちゅんちゅん」に一人の雀士がいた。その名も神崎サエコ。姉を探して上京してきた彼女は神ががりとも言える強さを誇り、あらゆる危険な勝負を受け、そして勝利してきた。その実力は新宿最強と謳われ、またその美貌は多くの男の視線を集めて止まない。…しかし、サエコさんは麻雀以外はまるっきりダメな、ちょっと残念なヒトだったのです。
ということで、本作は麻雀ものなのです。そもそも重野先生は麻雀が大好きですから、いつか書きたかった題材なのでしょうね。本作はサエコさんの腕を聞きつけて、様々な挑戦者(ホントに様々な)がやってきまして、息詰まる勝負、時にはバカ全開のやりとりが繰り広げられるのですが、さて、主人公であるサエコさんなのですが、良いですね、重野先生お得意の「ちょっと残念な女性」ですよ。それではどう残念なのか、いくつか挙げてみましょう。
1:ホントに麻雀しか出来ない
サエコさんは麻雀においては天才であり、またいかなる勝負も受ける胆力の持ち主です。つまり天性のギャンブラーであり、下手するとあのアカギをも凌ぐ実力を持っているのかもしれません。
が、そのアカギも麻雀から離れるとオモチャ工場でサルを作るしかなかったように、サエコさんも雀卓から離れて「ちゅんちゅん」の店員となると、天性のドジッ娘アビリティーを如何なく発揮し、結果、会計や配膳(雀荘では軽食を取ることが出来るのです)などの雑務が全くこなせない、それどころか店の備品を次々と壊してしまう(もちろん本人に悪気はないですよ)ポンコツ店員になってしまいます。このギャップが、お約束とはいえ、かなり笑えます。
2:私生活がヒドい
サエコさんは麻雀においては鬼神であり、またどのようなレートでも動じない平常心の持ち主です。つまり天性の勝負師であり、下手をするとあのカイジをも凌ぐ博才を持っているのかもしれません。
が、そのカイジも勝負から離れるとまったく自堕落な生活を送っていたように、サエコさんもカップ麺とポテチ中心の食生活だったり、ドジッ娘アビリティーによってありえない規模の迷子になったり、預金せず、全財産を持ち歩いたがために数千万円(全て麻雀で勝った金)を失ったりと、あまりにポンコツ過ぎて笑えてきます。
3:麻雀が好きすぎる
サエコさんは麻雀においては修羅であり、また誰が対戦相手でも全く手を抜かない(たとえ初心者でも)闘争心の持ち主です。つまり天性の博徒であり、下手をするとあの零をも凌ぐ勝負勘を持っているのかもしれません。
で、その零が義賊活動に心血を注いだように、サエコさんもひたすら麻雀道を突っ走ります。何よりも麻雀を最優先し…、いや、「道」とかそんな良いものではなく、ただ、もう、単に打ちたいだけです、このヒトは。麻雀を打つためなら世の中の大抵のコトはどうでも良いらしく、また某麻雀漫画で出てくるような危険な勝負にも嬉々として(曰く「やってみたかった」)受けます。その麻雀狂いっぷり、そう、麻ジャンキーっぷりには笑うしかありません。
このように、サエコさんは麻雀は滅法強いのですが、残りがもれなく残念な方です。まぁ、先述のように、これまでの重野作品では様々な残念な女性が出ては来ていました。「グッティー」のヨーコ先生は所構わず居眠りをする方でしたし、「大家族」の愛子ねーちゃんは所々間抜けな方でした。が、重野先生の描く「ちょっと残念」はとても可愛らしい残念さですから、むしろチャームポイントとなっていました。
…しかし本作のサエコさんの残念っぷりは、本当に残念なのです。残念なのですが、なんでしょう、読み進めていくとだんだんと「あぁ、やっぱりサエコさんだ」とか「そうだよな、サエコさんだもんな」とサエコさんの残念さに慣れてくるというか、これもサエコさんの味だと認識してくるというか、むしろ「この残念さがなければサエコさんじゃない!」とまで思えてきて、あれほど残念だった残念さが(へんな日本語)何だか可愛らしく感じてくるから不思議です。
そこへ差し込まれる一癖も二癖もある挑戦者たちとの真剣勝負、緊迫の闘牌シーンでは、残念さからは一転、サエコさんはとても勇ましく、えらいことカッコいいのです。まぁ、「ある面では輝き、ある面ではダメダメ」というのはコメディにおける基本なのですが、先述の通り、サエコさんの場合は「ダメダメ」が半端ではない上に笑えるので、その分シリアスな闘牌シーンがめちゃくちゃ輝くのです。結果、サエコさんは非常に魅力的なキャラクターと言えるのですから、世の中分からないものですね。
さて、このあたりの「ギャグ」と「シリアス」のバランス加減や、麻雀が分からない方でも楽しめるような麻雀一辺倒ではないお話作りは、思えば「信長の忍び」のギャグとシリアスのサジ加減や、歴史に疎い私でも面白く読める作品であることを考えれば、まさしくギャグ漫画家である重野先生の力量であると言えましょう。スゴイ人だぁ。
さて本作は存在感ありすぎな主人公サエコさんを中心に、雑務は完璧だけど麻雀はゲロ弱、サエコさんにゾッコンラブの「本田くん」、金が掛かれば滅法強い、巨乳相手にキレる貧乳、本作のツッコミ役「美也ちゃん」、色々なイカサマ知ってるんだから、昔なんかあったんだろうけど、今は料理上手な「地井店長」らのちゅんちゅんメンバーが脇を固め、クセのあり過ぎる挑戦者相手に真剣勝負を繰り広げるのです。
熱い勝負、爆笑のギャグ、残念なサエコさん、よくもまぁネタが尽きないねと感心する挑戦者の面々と、非常に作り込まれた本作は元々現代劇をフィールドとしてきた重野先生の真骨頂とも言える作品であります。ということで、ここで試読だイェー。繰り返しになりますが、麻雀分かんなくても大丈夫ですよ。オススメです。
読んで頂いてありがとうございます!
↓↓このブログ独自の「いいね!」を導入しました。少しでもこの記事が気に入って頂けたら押して頂けるとうれしいです。各著者が無駄に喜びます(・∀・)イイ!! よろしくお願いしますm(__)mtodome
最新記事 by todome (全て見る)
- ショーの裏側見せますの巻 (映画「地上最大のショウ」) - 2021年2月20日
- きになるお年頃の巻 - 2021年2月17日
- 甘い生活の巻 - 2021年2月8日
- 冬のお供といえばの巻 - 2021年2月3日
- いにしえゲーム血風録 二十二回表 「イメージファイト(ポッド編)」 - 2021年1月30日
コメント