今回はADVの始祖とも言える超有名作品、ZORKを紹介しましょう。
ZORKはいわゆるテキストアドベンチャーゲームで、プレイヤーは名もなき冒険者となり、巨大地下帝国を探検して宝物を集めていく、という物語です。さて普通のADVなら、画面上には状況を説明する文章とグラフィック、それに選択出来るコマンド(「取る」とか「話す」)が表示されていますが、このゲームではグラフィックが存在しません。その上選択コマンドも存在しません。つまりプレイヤーは説明文章からその情景を想像し、移動をはじめとした行動の全てはプレイヤーが実際に入力しなければならないのです。
しかしこれはある程度の単語や文章ならシステムが理解してくれるということです。コンピューターの文章理解がようやく形になったのは今世紀初頭ですが、しかしこのゲームが発表されたのは1980年のこと。当時としては驚くべき技術と言えるでしょう。もちろん、あまりにも長い文章やマイナーな単語は認識出来ませんが、ゲームをプレイする上では日常的な言葉であれば全く支障はありません。実際、相当数の単語を認識してくれますから、特に構えることなく作品世界に入ることが出来るでしょう。
では具体的なゲームの流れを説明しましょう。まずコンピューターが現在の状況を説明してくれます。例えばスタート地点では
「家の西側 : あなたは白い家の西側に立っている。家にはドアがあり、その横には郵便受けがある。そして道が家に沿って南北に、また西に向かって伸びている」
と表示されます。プレイヤーはこれを読んで、思い付くことを入力していくことになります。仮に郵便受けが気になるのであれば
「郵便受けを開ける」
と入力すれば、コンピューターが
「中に封筒が入っています」
と説明を続けてくれます。その上、単に「郵便受け」と入力したり、「開ける」「郵便受け」と単語で入力しても「中に封筒が入っています」と説明してくれます。
また「郵便受けを壊す」みたいな文章を入力すると「そんなことはやめた方がいいですよ」と諭されますし、ある行動を取ると「友達に嫌われますよ」とか言われます。このあたりの妙なユニークさが、日本の「点取占い」を彷彿とさせ、和みます。
このようにコンピューターはプレイヤーの入力を相当ユルく理解してくれる上に、トボけたやり取りも行ってくれるため、プレイヤーとコンピューターのやりとりは非常に自然になり、あたかもTRPGをプレイしているような味わいがあります。このようなやり取りを繰り返し、地下に眠る宝物を集めてくるわけです。
しかしこの宝物探索、引いては広大な地下迷宮探索は一筋縄にはいきません。例えばプレイヤーは地下迷宮で宝物をはじめとした様々なアイテムを入手するのですが、このゲームには重量制限が存在し、時にはアイテムを置いていかなければならない事態も起こります。ですから何を持っていくかよく考えないと、後々重要な場面で必要なアイテムを持っていない、という残念なことにもなり得るのです。このあたりのトレードオフも、人によっては面倒くさく感じるかもしれませんが、このゲームを複雑かつ面白くしている要因と言えます。
また地下迷宮の探索は必ずしも一本道ではありません。例えば地下迷宮のあちこちには様々な怪物が徘徊しているので、時には戦う必要もあります。真っ向勝負を挑むことも出来ますが、頭を使った戦法で簡単に撃退することも出来ます。つまり1つの問題を解決する方法は1通りではなく、プレイヤーの探索には相当な自由度が設定されているのです。文章だけの状況説明といい、複数の解法の存在といい、このゲームはプレイヤーの想像力を限界まで試しているとも言えます。
とはいえ、宝物を獲得するまでの道のりはなかなか険しく、持っているアイテム、現在の状況、そしてプレイヤーの想像力をフルに活用しなければ難しいものばかりです。1つの宝物を獲得するのに何時間も頭を悩ませることも珍しくないでしょう。実際ヒントも非常に少ないので、かなり苦労されると思います。そんな時はコンピューターの紡ぐ言葉やアイテムの本質をよく考えてみてください。そして何よりも人間の宝である知性、すなわち「論理」と「飛躍」を駆使すれば、必ず宝物は入手できるでしょう。そして全ての宝物を手に入れた時…、それは皆さんの目で確かめてください。
さてこのゲームは全部で3部作なのですが、皆さんの嫌な予感の通り、オリジナルは全て英語版です。日本語版はZORK1(第1部)だけがPSとSSでリリースされていて、こちらは若干のグラフィックとBGMが追加され、それにコンピューターの状況説明文からコマンドを生成出来るので若干楽です。特にBGMはさりげないながらもしっかりと世界観を語っており、ゲームを盛り上げてくれます。そのうちZORK2、ZORK3も日本語版が出ないかしら、と期待しつつ15年が経ってしまいましたが、初めてZORK1をやった時の衝撃は今でも忘れられません。どうぞ皆さんも広大な地下迷宮で迷子になってみてください。
それでは十一回表でお会いしましょう。
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