前回までのあらすじ:最新レースゲーム「リッジレーサー」がリリースされるも全く気付かなかったボンクラだったが、長兄に教えられ、ようやくその存在を知る。それどころか次世代ゲーム到来を目の当たりをして簡単にハマる。しかしこれまで「ブレーキを踏む」ことを知らなかったレースゲー音痴なボンクラだけに、今後の攻略がとてつもなく心配だったのだった。
さてリッジレーサーにズッポリハマった私は、それから毎日のようにプレイしました。しかし1プレイ100円なのでバカみたいに何回も出来ませんから、せいぜい1日1回、あるいは「バース」を我慢して2回が限界でした。大抵のゲームは回数をこなせば自然と上達するものですから、プレイ回数が少ないというのは攻略する上では結構なハードルです。しかしそこは「ゲームに飢え、しかし惚れ込んだ者の情熱」とでも言いましょうか、少ないプレイ回数だからこそ、好きなゲームであるだけに逆に集中することが出来たようにも思えます。
実際、プレイ中の私は色々なことを考え、試していました。具体的には「どのくらいハンドルを切ると車体が傾くか」とか「どのくらいカウンターを入れればドリフトが終わるか」とか考え、ハンドルの切り具合を試行錯誤していたのです。また同時に長兄からレースゲームにおける基本中の基本「アウト・イン・アウト」を(今頃)教わり、実際にノートにコースを描いてライン取りの研究もし始めました(だから授業は聞いていなかった)。
これは(手前味噌ながら)驚くべきことです。ちょっと前まで「アクセルベタ踏み、ノーブレーキ、ラインテキトー」の小僧が、それなりにコース構成を考慮した攻略を(つまり普通の攻略を)始めたのです。私の主観としては「公園で友達とふざけ半分に押し合いしていた子が、次の日、格闘専門誌で関節技の研究を始めた」ようなものです(おおげさ)。それほど私はリッジレーサーに魅了されたと言えましょう。
さてコースを覚え、ライン取りも研究した私は、程なく初級を完走することが出来ました。次は中級ですが、コースは同じで周回数が2周から3周に増えるだけですから、こちらは楽勝でしょう。と思っていた私でしたが、最初のドリフトポイントで難なく外壁に激突しました。そうです、中級は最高速度が200km/h。初級よりも40km/hも速くなっていたのです。ですから初級と同じようなスピード感で走っていると、気が付くとカーブに差し掛かっていることになり、結果ブレーキが遅れ、ドリフトする間もなく激突、となってしまったのです。また初級ではアウト・イン・アウトで余裕で抜けられていたコーナーも、中級ではきっちりライン取りしないと曲がれなくなってしました。結局、中級の初プレイは1周も出来ずに終わってしまいました。
筐体から降り、休憩スペースのベンチに座った私は、腕組みをし、コーヒーを飲み、目を瞑りました(つまり途方に暮れた)。…40kn/hの違いって速ぇなぁ。しかしここでコーヒーを啜っていても仕方ありません。ゲームとはこれ鍛錬なり。私は200km/hの世界に慣れるため、しばしバースを封印して走り込みを開始したのでした(結果、バースがへたくそになった)。
やがて200km/hの世界には慣れましたが、しかし理想のラインをいつも取れるわけではありません。敵車にラインを取られてインからコーナーに進入してしまうことや、コーナー出口で敵車に進路を遮られることもあります。そうなるとどうしても衝突の憂き目に遭ってしまうので、ブレーキを踏んでしまいますが、そうなると速度がガクンと落ちてしまい、最悪意図しないドリフトとなって大幅にタイムロスしてしまいます。結局タイムアップでリタイヤとなってしまうのです。
しかしある日、私はコーナー出口の敵車をかわそうと、無意識にアクセルを緩め、慌てて踏み直しました。すると速度がわずかに落ちましたが、代わりにグリップ力が増し、旋回性能が向上することに気が付きました。試しにトンネル内のきつめのコーナーでアクセルを何度か踏みなおしながら曲がってみると、アクセルベタ踏みよりも楽に曲がれます。コレだ!と色めき立った私は、再度中級に挑戦しました。そして敵車に遮られ、コーナーを曲がり切れないと判断した際に先程の「アクセル踏み直し」をやってみると、グッグッと力強く旋回し、上手く曲がり切ることが出来ました。
この技のおかげで敵車による妨害で曲がり切れない事態となっても、上手く激突を回避出来るようになりました。それどころか敵車の妨害がない場合でも、常にイン側を走ることが出来るようになり、結果タイムが短縮。遂に中級を完走することが出来ました。
さぁ、いよいよ未知の領域、上級です。最高速は中級と同じく200km/hですが、コース図を見た限り、新しく加わった後半は相当曲がりくねっているようです。しかし走ってみなければ分からないので、早速プレイ開始。前半のコースは難なく走破し、いよいよ分岐点を左に曲がって上級コースへ向かいます。
まず工事現場を両脇に見て山道へと入ります。が、この山道が狭いのです。これまでのコースは道幅が2、3車両分はあったのですが、この上級コースは1.8車両分しかないように見えます。また細かいコーナーが右へ左へと連続し、しかも中盤には「緩めのカーブ → きついカーブ」という複合カーブが待ち受けているという構成です。ここを敵車と入り乱れて走り抜けなければならないのですから、1度や2度の外壁激突では済みません。敢え無く敵車に追い抜かれ、当然時間も足りずにリタイヤとなりました。
筐体から降り、休憩スペースのベンチに座った私は、腕組みをし、コーラを飲み、天を仰ぎました(つまりまた途方に暮れた)。…あんな山道じゃ事故多発地帯だよ。しかしここでコーラをブクブクさせていても埒があきません。ゲームとはこれ修練なり。私はもうしばらくバースを封印して走り込みを開始したのでした(結果、バースがよりへたくそになった)。
まず道幅の狭さです。敵車が後方にいるなら、道の真ん中を走っていればブロック出来ますが、逆に敵車が前方にいる時は追い抜くことがむつかしくなります。一応外壁ギリギリに走れば追い抜けないこともないのですが、何しろカーブの連続ですからリスクが高すぎます。しかしここで仕掛ず、後方で現状維持とすれば結果としてタイムロスとなってしまうので、もはや衝突もやむなし、と割り切りました。
次に中盤の複合カーブです。このカーブは前半の緩めのカーブの入り口でドリフトしてしまうと、後半のきつめのカーブを曲がり切れずに外壁に激突してしまいます。ですから緩めのカーブは普通に抜け、きつめのカーブに入ったところでドリフトを開始しなければなりません。と、言うのは簡単ですが、しかし走行中に「きつめのカーブに入った」と目視で判断するのは大変むつかしいのです。というのは、周囲が似たような山道の景色ですから、これと言った目印が無いのです。これはもう、走り込んでタイミングを計るしかありません。
と、戦略っぽいことを考えましたが、全体として出たとこ勝負という穴だらけの作戦を考えた私は、100円玉を握りしめて筐体へと向かいました。そして分岐点から上級コースへと入り、敵車にぶつかり、外壁にぶつかり、ドリフトが早すぎてぶつかり、やっぱり敵車にぶつかり、当然タイムアップでリタイヤとなりました。結局走り込むしかなかったのです。
その後、私は挫けず(むしろ懲りもせず)上級を走り込みました。するとどのくらいの隙間があれば敵車を追い抜けるか、複合カーブのドリフト開始ポイントはどこかが感覚的に分かるようになってきました。前者は自車の車両感覚を掴んできた結果ですし、後者は完全にタイミングだけで曲がっていましたから、正直どちらも本当に感覚頼りの説明のしようがないものなのですが(だから攻略としてボンクラ)、しかし走り込めば走り込むほどこれらの感覚が体に染み込んでいき、走りは安定していったのです。
そして遂に3周目の最終コーナーを曲がり切りました。とうとう完走したのです。順位は凡庸でしたが、しかしレースゲームの上級をクリアしたのはこれが初めてでしたから、私は筐体を降りた後もドキドキしていたことを覚えています。地に足が付かないとはこのことで、私はしばらく休憩スペースのベンチに座り込んでいたのでした。
そして私は初級、中級、上級で1位を取れるまでに上達しました(相変わらず感覚頼りなのがいただけませんが)。最高速度220km/hのT.T(タイムアタック)にも挑戦しましたが、猛烈なスピードは楽しいのですが、何しろ敵車が1台しかいないので少々物足りなく(しかしタイムアタックはそういうものです)、かといって私はストイックにタイムを突き詰めるタイプでもなかったので、結局レースとして楽しい中級、上級をひたすら遊んだのでした。
そんなある日、何気なしによった駅前のゲーセンでリッジレーサーを見つけました。が、それは私がいつも遊んでいる小型タイプではなく、ハンドルとシフトレバーが実車と全く同じサイズのデラックスタイプでした。
小型タイプはハンドルが小さいので簡単に旋回出来るのですが、このデラックスタイプは旋回するのも一苦労、しかもシフトチェンジはちゃんとクラッチを踏まないといけないという(実は踏まなくてもギアチェンジは出来る)、ヘンに本物志向の一品で、私は直感的に「これは無理だ」と一回も触りませんでした。今思えば惜しいことをしたものです。ちなみにロードスター実車を使った「フルスケール」なんてのもあったそうですが、これはバカでかいので見たことはありません。
そんなわけで、私はゲーセンから撤去されるまでリッジレーサーを遊び倒し、PS版ももちろん遊び倒しました。その後も対戦が出来る「リッジレーサー2」、新コースが導入された「レイブレーサー」とリッジシリーズを遊び倒しました。しかし衝撃の大きさはやはり、初代リッジレーサーが一番だったように思えます。今でも車を運転する時は、時折初代リッジレーサーのサントラをかけてしまうのですから。
それではまた、七回表でお会いしましょう。
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