前回までのあらすじ:友人宅でメトロクロスを見た私は、「なんだこの質素なゲームは」と思ったが、実際にプレイするや、製作者の罠に翻弄される。裏を読み、裏の裏を読み、それはつまり表だったりするが気が付かず、簡素なシステムながら壮絶な心理戦であり、もはや「ざわ…ざわ…」どころではなくなった私と友人のボンクラコンビだったのだった。
友人はファミリーコンピュータマガジン(通称ファミマガ)をじーっと見つめ、心なしか口が半開きです。何か衝撃的な記事でもあったのでしょう。…まさか「メトロクロス2」!?まだクリアもしていないのに!?それともウワサの「ドラゴンクエストⅡ」でしょうか。それ以前に、ローラ姫はどこにいるんでしょう…。数秒間で色んなことを考えてしまった私でしたが、友人は目を上げると、おもむろに雑誌を私に差し出したのでした。
そこは「ウル技(うるてく)」のコーナーで、いわゆる裏ワザ投稿のコーナーでした。今回も色々な裏ワザが紹介されています。「キングコング2 怒りのメガトンパンチ」とか「ドラえもん」とか「メトロクロス」とか…、何ィィィィィッ!?メトロクロスに裏ワザが!?(あっても不思議ではないが)早速その記事を読んでみます。記事のタイトルは、
「ほとんど無敵なのだよ、ライン合わせはね。」
無敵ッ!そんな便利な技があるのか!?記事曰く、ランナーの足をタイルとタイルの間の溝(つまり目地)に合わせると、ドラム缶やハードル、落とし穴やクラッカーをすり抜けることが出来るというのです。唯一、ナイトとキングにはぶつかってしまい、ネズミにも噛まれてしまうということでした。
またスリップゾーン(緑のタイル)も無効にはなりませんが、スケボーでもライン合わせは可能だそうで、車輪のフチを同じように溝に合わせればOKとのこと。これでナイトやキング、ネズミに気を付ければ、緑のタイルすら気にすることなく、余裕ぶっこいて爆走出来るそうです。
…本当か?コレ?私と友人はにわかには信じられませんでした。そんな簡単なことで無敵になるものだろうか?ファミマガのことだから、どうせ「ウソ技(ウソテク)」なのではなかろうか。しかし我らの脳裏に浮かんだのは、例の「スケボー直後ハードル地獄」で、もしこの技が本当ならば、ハードル地獄を簡単に突破出来ることになります。そしてその後の緑地獄もへっちゃらです。むやみにときめく我らの心!これは試すしかない…!
早速友人はカセットを突っ込み起動。まずは1面で技の真偽を確かめます。が、思いのほかランナーの足の裏の線と溝を合わせるのがむつかしく、「よし、これでピッタリだ!」と思ってドラム缶に突進して轢かれる始末です。なにしろランナーは走っていて、当然足踏みをしているので足の裏の線が見極めにくく、バカ2人はブラウン管に近づいて目を細めますが、ちっともさっぱり分かりません。
仕方なく2面に進みます。2面にはスケボーがありますから、これで試してみるのです。緑のタイルに囲まれた細道を進むと、ありましたありました、スケボー発見です。早速乗ってみますと、スケボーの車輪は特にアニメーションをしていないのでフチがよく見えます。そこで十字キーを左に入れ、停止させてから慎重に車輪のフチとタイルの溝を合わせます。
「よし、これでピッタリだ!(2回目)」と、我々は意気揚々と目の前のハードルへと突進!…したかったのですが、そこはヘタレですので、おっかなびっくりハードルに近づきます。まるで生まれて初めて女性(ブルマ)に出会った孫悟空のようです(別にこの後『タマがねぇ、チンも…』とか言うわけではない)。
じりじりとハードルに近づき、そして…、スルリと通過しました!出来た!ていうか出来るんだ!?直前まで「ウソ技なんじゃね?」と疑っていた我々でしたが、出来てしまったら現金なもので、ファミマガを感謝の意を込めてパンパン叩きます。これであのハードル地獄を抜けることが出来るッ!バカ2人の目の前は急激に開かれたのでした。
*今思えば、恐らくこの技は「ドラム缶やハードルの当たり判定がタイルの溝にはなかった」ことと「ランナーの判定がちょうど溝の幅しかなかった」から出来たのでしょう。つまり障害物の当たり判定の隙間にランナーがスッポリと入ってしまったのですね。これに対して緑のタイルは溝にも判定があったのでしょう。もっともナムコが意図して仕込んだかどうかは分かりませんが。
さてバカ2人は勇んで例のハードル地獄へ向かいます。プレイは友人に任せ、私は正座して見学に徹します。途中のステージで何度もライン合わせのリハーサルをし、ついに走行しながらでもライン合わせが出来るようになりました(ここまで至るのに10回以上ゲームオーバーになりましたが)。
そしてついに約束の地に到着!…しかしここで一旦ポーズを掛けます。友人はコントローラーを畳に置き、手をグーパーグーパーと忙しなく握っては広げ、私は何故か説明書を読み、ファミマガの例のページも読みます。2人とも、明らかに動揺しています。
そして意を決してゲーム再開!友人操る傷だらけのランナーはスケボーをラインに合わせ、ハードル地獄に突っ込みます。いよいよ運命の時!1秒は無限にまで引き延ばされ、人類数百万年の歴史は少年の瞬きの間に通り過ぎていくッ…!…って、まぁフツーに通り抜けられたんですけどね。あまりにもアッサリ通り抜けられたので、拍子抜けする我ら。そのまま緑地獄を楽々と通過し、念願のゴールに到達です!
やったッ!やってやったッ!私と友人は大喜びの有頂天の大得意です。これで全面クリアも夢ではありません。そう「全面クリア」こそ、まさに当時の小学生の夢でした。この頃のファミコンソフトはACの移植が多かったからか、なかなかの難易度のゲームばかりでした。それは小学生には到底手に負えない難易度で、買ったは良いがクリア出来ない、という事態も珍しくありませんでした。
ですからエンディングを見ることが出来たのは、コツコツとパラメーターを上げていくRPGくらいのもので、ACTやSTGは選ばれた者(平たく言えばゲームがなんか上手い人)にしか制覇出来ませんでした。本作メトロクロスもその1つで、「製作者との心理戦+ガチ暗記」は小学生にはハードルが高すぎ、友人達の中で全面クリアを達成した者はいませんでした。
それがこのライン合わせによって、全面クリアが俄然現実味を帯びてきました。自分が選ばれた者になれる…!自然と鼻息が荒くなる我々。もはや怖いものなど何もないッ!私と友人は次のステージへと進んだのでした。
…で、結論から言いますと、全面クリア出来ませんでした。無敵技を体得したのに何故かって?結局このライン合わせが絶大な威力を発揮するのは「スケボーに乗っている状態でのライン合わせ」であり、つまり「スケボーが出現しない面はガチでトライしなければならない」からです。
一応、足で走っている状態でもライン合わせは出来ます。もちろん無敵です。しかし緑のタイルに引っ掛かってしまいます。これではスピードダウンして、制限時間に間に合いません。また緑のタイルの構成によっては、上下に移動しなれば突破しにくい場合もあります。そうなるとライン合わせは解除され、途端にドラム缶やキューブ等の攻勢に押されてしまうのです。
結局、足で走っている状態でのライン合わせはあまり実りがなく、フツーにガチで攻略した方がよっぽど効率が良いのです。もっとも上級者であれば、ここぞというポイントで一発でライン合わせをすることができ、有効に使いこなせるのですが、小学生の我々には無理でした。いちいち慎重にランナーの足の裏を溝に合わせなければならなかったのです。
そんなわけで、我々は「スケボーライン合わせによる無双感」を味わうに留まり、中盤からの暗記必須のコースには手も足も出なかったのです。そして結局、メトロクロスはクリアされないままに忘れ去られていったのです。
それから10年後のことです。ゲーム弱者だった我が家にもPSが導入され、私は「ナムコミュージアム」にどっぷりと浸かっていました。VOL.4では「源平討魔伝」をやり込んだ私でしたが、雑誌(ていうかファミ通)で近々リリースされるVOL.5のラインナップを見てハッと目を見開きます。そこにはメトロクロスの文字がありました。途端に小学生の頃が思い出されます。
連続ジャンプの楽しさ、スケボーの爽快感、落とし穴の残念さ、アルミ缶を踏みつける痛快さ、そして…ライン合わせ。あぁ、むつかしかったなぁ。しかし私もゲーセン小僧の端くれ、あれから数多のゲームを遊び倒し、小学生当時とは比べ物にならないゲーム技能を身に着けました(多分)。いきなり全面クリアとは行かないにしろ、きっと当時よりは華麗なプレイが出来るはずです(恐らく)。遊んでみたいなぁ…。でも、小遣いがないしなぁ。あ、あの男が何とかしてくれるか!
そして発売日、やっぱり長兄がVOL.5を買ってきました。さすが兄貴!分かってるぅ!長兄は「ドラゴンスピリット」と「ワルキューレの伝説」を集中的にプレイし、例の如く設定資料を見て「ほぅ」やら「ふぅむ」やら呟き、存分に悦に浸っています。まぁ、クリアは出来ませんでしたが。
さて私は私で、長兄のプレイの合間にメトロクロスをプレイします。源平討魔伝の時の轍を踏まないよう、今回は最初からTIPS(攻略豆知識)を閲覧します。アルミ缶を踏むことによるタイムストップやジャンプ台の使い方が載っていますが、これは知っているのでスッ飛ばし、次のページには、出ました「ライン合わせ」が載っています。なになに…?
「ランナーをタイルの溝に合わせると、障害物を避けることが出来る」
…そうか、AC版でもこの裏ワザは使えるんだな。しかも方法も一緒。多分指が覚えていてくれるでしょう。ともあれ早速プレイしてみましょう。
当たり前ですが、タイトル画面からしてAC版はFC版よりも画面が綺麗で、BGMもクリアです。そしてゲームスタートして驚いたのが「操作性の良さ」でした。FC版ではぎこちなく動いていたランナーですが、AC版は実に滑らかに動き、ジャンプしてくれます。またジャンプ中の空中制御もやりやすく、現実では到底無理なジャンプ(前方にジャンプしてから空中でちょっと後ろに戻る、とか)をしてくれます。非常に快適です。
やっぱりFCはACには敵わなかったんだな、とかなんとか思いつつ、早速ライン合わせを試します。まずは2面まで進み、スケボーに乗り、えぇと、ラインを車輪のフチに合わせて、と。前方からドラム缶が転がってきますが、カンタンにすり抜けられ
「ボゴッ!」
…轢かれたよ!?アレ!?ちゃんとラインに合わせたよね!?首を傾げながら次のスケボーに乗り、ラインを合わせ、ドラム缶に轢かれます。…なんで!?バグ!?どういうこと!?その後も何度もトライしますが、何度やってもドラム缶に轢かれました。変だなぁ、と思いつつも、AC版の操作性の良さが楽しく、私はひたすらプレイし続けました。
数日後、私は書店に居ました。もうお気付きですね?攻略本です。ライン合わせが上手く出来なかったことがどうしても納得出来なかった私は、事の真偽をはっきりさせるため、源平討魔伝の時と同様に、攻略本に頼ったのです。もちろん立ち読みです(タチが悪い)。そして衝撃の事実を知ります。攻略本にはこう書かれていました。
「スケボーの車輪の軸をラインに合わせると、障害物をすり抜けることが出来る」
…AC版は軸なのか!なるほどね!私は満面の笑みで書店を後にし、そのままメトロクロスを起動。そして今度は車輪の軸を溝に合わせると、出来ました出来ました。あぁ、良かった。これで、今度こそ全面クリアだ!
が、ゲーセンで培ったゲーム技能が足りなかったのか(それとも元々そんなものは備わっていなかったのか)、やっぱり中盤の暗記勝負の所で詰まってしまいました。世の中、そう甘くはないってことですね。そしてやっぱりクリア出来ず、現在も時折プレイしますが、やっぱり「オレって暗記、苦手だな」と思い知らされるのでした。
さて時は下って21世紀。ナムコがメトロクロスの続編を作る、というニュースが飛び込んで来ます。その名も「エアロクロス」。今度は未来都市の高架を走り抜けるという内容で、ギミックやグラフィックがとんでもなく進化したものになる、はずだったのですが、諸般の事情とやらで開発中止となってしまいました。もし完成していたら、どんなハイスピードなゲームになっていたんでしょう。何よりもライン合わせは出来たんでしょうか?残念でなりません。
それでは最後にメトロクロスのスーパープレイをご紹介しましょう(AC版です)。この方はもう、鬼神です。アルミ缶蹴りでガンガン稼ぎ、ライン合わせをピッタリ決め、連続ジャンプが華麗過ぎて、もぅ、上手すぎて参考になりませんが、これからメトロクロスをプレイされる方は参考にしてみてくださいね(ならねぇっての)。
それではまた、十三回表でお会いしましょう。
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