今回ご紹介しますは須藤真澄(愛称ますび先生)の「グッデイ」であります。ますび先生は日常とは少しズレたファンタジーを、丸っこい可愛らしい絵柄でほのぼの描く相当な手練れでありまして(何様)、また大変な猫好きでもあり、ネコマンガの大家でもあったりします。
そもそも私がますび先生の作品に触れたのも、須藤家最初の猫、ゆずくんとの毎日を描いた「ゆずシリーズ(と私が勝手に呼んでいるだけだが)」が最初でありまして、ケンカがからっきし弱いヘタレなゆずくんは非常に愛らしく、その様を持ち前の丸っこい絵柄で余すことなく表現されており、やっぱり猫好きである私はいっぺんにファンになってしまいました。
次に手に取ったのは「おさんぽ大王」という、タイトル通り、ますび先生があちこちに出張り、自分の運動不足とインドアっぷりを見つめ直す内容でして(かなり誇張アリ)、これらを読んだ私が「あぁ、ますび先生はエッセイマンガの人なのだ」と考えてしまったのも無理のないことです、えぇ無理のないことですとも。
で、十数年経った現在、ふと思いついて「そうだ、ますび先生の他の作品も読んでみよう」と思い立ち、熱帯雨林で探し回ったところ、どれもこれもガチのファンタジー作品であり、ここに来てようやく「あッ!ますび先生はファンタジーの人だッ!」と気付き、何しろF先生の「SF(すこしふしぎ)」が大好きな私ですから、あっという間にますび先生の世界観に魅了されたとしてもちっとも不思議ではないのです、えぇ不思議ではないのですとも(すこしふしぎだけに)。
さて、毎度毎度の前置きが長くなりましたので、ここらで本作「グッデイ」の簡単なあらすじを、それこそ帯の惹句をそのまんま書き写すことでご紹介することにいたしましょう(非道)。
「玉迎え」とは、身体の寿命で亡くなる人の体形が、その前日から球体に見える状態をいいます。玉迎えは、15歳以上の人が任意で服用できる「玉薬」を飲むことで見えるようになります。亡くなる人と、玉迎えが見える人の組み合わせは、世界でたった一組のみ。だけど、もし0.0000…%の確率を越えて、出会うことが出来たなら…。
ということで、本作は翌日寿命で亡くなる人が球体に見える「玉迎え」という、奇想天外な設定で語られる連作集であります。さてもう少し作品世界についてご説明しますと、この世界では玉迎えの人を見つけた場合、以下のような対処が最善であるとされています。すなわち、
「玉迎えの方を見つけたら慌てずにそのご家族にだけ知らせて下さい。決してご本人には直接告げず、ご家族の判断にお任せして下さい。」
…ということなのです。確かに本人に告知するのはショックが強すぎるでしょうから、その方の家族に連絡するのが、葬儀やら何やらの手続きもありますから、親切ではありましょう。実際、作中の「玉迎えが見える人」は本人に気付かれないように、何とかご家族の方と連絡を取ろうと奮闘します。
…しかし、本当に当の本人に告知しなくても良いものなのでしょうか?我が身のことと考えれば、明日死ぬと分かっていれば、最期の日にはやり残したことの無いように身辺整理をしておきたいものです。
とは言うものの、実際に「あなた、明日死にますよ」と急に言われたら、逆に大パニックになり、場合によってはヤケになってとんでもない悲劇を巻き起こしてしまうかもしれません。
本作ではこの「死ぬことが分かってしまった」場合、当人と周囲の人々がどのように振る舞うのかが詳細に考察されています。告知した場合、告知しなかった場合、告知はされなかったが、周りの態度で気付いちゃった場合、告知はせず、なんとか気付かれなかった場合、などなど。
そしてどのエピソードの登場人物も、それぞれに悩み、納得し、あるいは「これで良かったのか」と自問します。しかしこれこそ本作の持つリアリティであると言えます。つまり「死」という、いわば人生最大の一大事を前にしては、 その対応は当然その人の人生を踏まえたものであり、必然的に十人十色でしかありえない、「正解がない」という事実を包み隠さず指摘しているからです。
ですから恐らく読者は本作の登場人物な誰かに、あるいは全員に共感することになり、ひいては「死」というものに対する自分の見解、あるいは立場がいかに揺らぎやすいものであるかを自覚することになるのです。
事実、私も本作の登場人物のほとんどに共感し、しかしそれは自分が相反する立場にまたがっていることにも気付かされ、つまり「告知すべき」だとも考えつつ、「告知するべきではない」とも考えてしまう自分にも気付き、ちょっと愕然としました。それほど本作の語りは巧みであると言えるでしょう。
さて「死」を取り扱った本作ではありますが、そこはますび先生ですので全く殺伐としたものではなく、先述の丸っこい絵柄でほのぼのと語られ、誰もが直面する問題でありながら、しっかりとコメディであるところはホント上手です。かのチャップリン曰く「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である」とありますが、それならば「死」もまた喜劇であっても不思議ではないのかもしれません。
もし興味を持たれましたら、まずはこちらで試読していただき、そのまま買っちゃえばいいじゃんか。そしてますび先生の作品を集めちゃえよ。ということで、オススメです。
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