我は所詮ロボット 第一回

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ゆっくりと目が覚めた。  セルフチェックの傍ら辺りを見回すと薄暗く、僕はいつものように横の襖を開けようとした。が、そこには何もなく、僕の手は空しく空を切った。首を捻って目をやると、そこにはただ黒い空間だけが広がっていた。一瞬、混乱した。  ここは、押し入れでは、ない?  そういえば僕の腰の下には布団はなく、何故かごつごつとした肌触りに変わっている。胸騒ぎを覚えた僕はモードを切り替えて視界を鮮明にしてから、もう一度辺りを見回した。そして飛び込んできた光景に、僕は息を飲んだ。  やはりここは押し入れではなかった。それどころか、辺りには見渡す限りの屑鉄が続いていた。どれも茶色く錆び付いていて、湿った鉄の臭いが鼻に着いた。  僕は屑鉄の山の上にいたのだ。何かの部品であっただろう小さな物から、機械のフレームであっただろう大きな物まで、ここには無数の屑鉄が幾つもの山を築いていた。変な言い方だが、壮観だった。  少し考えて僕は立ち上がり、 麓まで滑り降りる。目的は特にない。途中バランスを崩して頭から落ちてしまったが、可塑性ダマスカス鋼で出来た僕のボディーは平気である。しかし地面に叩き付けられた途端、目の前に大きな板が落ちてきた。思わず上を見上げるが、そこには何もない。不意に落ちてきた滴が僕の目を濡らした。視界が茶色く変色する。錆びた水だった。  自然、落ちてきた鉄板に目を凝らす。あちこち腐食しているが、うっすらと青と白の塗装が残っていた。その色には見覚えがあった。何故か戦慄を覚えつつ、僕は自分の顔に手を伸ばす。と、ざらりとした異様な感触が走る。剥き出しの基盤と配線がそこにはあった。  つまり、鉄板は僕の外装だったのだ。 「僕は錆びているのか……?」  反射的にクロックを確認する。2055年6月24日、午後1時25分。昼の筈なのに、辺りは暗い。時差調整をしていないから、もしかすると日本ではないのかもしれない。そもそもクロックが正常なのか分からないが、感覚的にここは何かの建物の中である事は察しが着いた。しかし何故僕がここにいるのかが分からない。いつからここにいたのだろうか?錆び付いてしまう程、長い時間ここにいたのか?  僕は原因を突き止めるべく、メモリーを検索する。きっと僕がここに来た経緯が分かる筈だ。しかし最後の記録は、 『2001年9月3日、午前2時11分』 「2001年9月3日……?」  随分時間が経っているらしい。勿論その事に驚きはしたが、それ以上に日付に僕は驚かされた。9月3日。僕の誕生日だ。いや、製造日と言うべきか?尤も僕は(クロックが正常であれば)あと57年後にならないと作られない。非合理的な考えだが、最後の記録が僕の製造日である事実は否応なく僕を不安にさせた。それを振り払うかのように、僕はメモリーの検索を続けた。  極限まで圧縮された映像と言語。解凍を試みるが、恐ろしく処理が遅い。直後電圧低下を知らせる警告が現れた。僕は首を傾げた。  確かこの間の定期検査で核融合炉を交換した筈だ。水素を燃料とするから半永久的に電力は確保出来る。電圧低下は有り得ない。もしあるとすれば、それは、 「まさか…。」  辺りの情景と総合して、僕はある一つの仮説を立てた。それを確かめるべく、セルフチェックの結果を呼び出す。結果を見て、僕は思わず天を仰いだ。予想通りだった。しかしその結果を信じられず、僕は自分の腹部に手を伸ばした。そこには開閉板があり、中の動力炉を直接見る事が出来る。が、それを確かめる前に、僕は新たな異変に気付いた。  そこにはあるべき筈の物がなかった。ざらざらとした手触りだけしか感じられない。実際に腹部に目をやる。そこには錆び付いた外装があるだけだった。誰が一体、と考えた、その時、  僕は全く突然に、しかし論理的に、全てを理解した。  もう、疑う事は出来ない。既に理解してしまったし、恐らく間違いではないだろう。頃良くメモリー解凍も不完全ながらも終了した。固有名詞の殆どは失われていたが、特に支障はないだろう。僕はその場に座りこみ、もう一度セルフチェックを行う。補助電源の残留電力は後1時間程だった。  しかし僕には充分な時間だった。  

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todome

過去のホームページ時代より寄稿させていただいておりましたが、とある作品を完結させぬままに十数年すっかり忘れ、この度親方の号令により、再び参加と相成りました、todomeと申します。 主に小話を寄稿させておりますが、マンガ、ゲームにつきましても、今後ご紹介させていただこうかと思っております。どうぞお付き合いください。

コメント

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