さて毎度おなじみナムコゲーセン「キャロット」は、学校から最も近いという理由で行きつけだった訳でして、足繁く通いはしましたが、かといってそこにこだわっていた訳でもありません。またキャロットのラインナップもそうそう入れ替わるわけではないし、当然ナムコ直営のため品揃えも偏るので、ですから見知らぬゲームを求めて他のゲーセンに行くこともよくあったのです。
例えば商店街を少し西に行けばセガ直営の「ハイテクセガ」があり、そこには業界初のホログラムによる3Dアクションゲーム「タイムトラベラー(セガ)」がありました(でもやらなかった)。また大通りの角にはタイトー直営の「タイトーイン」があり、そこには航空機着陸大型シミュレーター「トップランディング(タイトー)」がありました(でもやらなかった)。このようにメーカー直営店だからこそのラインナップがあり、それを求めてあちこちのゲーセンに行く毎日だったのです(もっともスト2はどこにでもありましたが)。
しかし中にはメーカー直営ではない、個人経営のゲーセンも少なからずありました。そこはいわば「多国籍営業」とも言えるラインナップで、あらゆるメーカーのあらゆる年代のゲームが、まさに有象無象の如く並べられていました(しかもスト2がないことも珍しくない)。そして私はメーカー直営のゲーセンよりも、そのような多国籍ゲーセンの方が好きでした。それはラインナップにメーカーの偏りがなく、珍しいゲームがあったこともありますが、そのようなゲーセンは往々にして薄暗く、私の大好きな「怪しさ」に満ちていたからでした。
さて駅前にはタイトーインがあり、しかし特に目を惹くものもなかったため、私はその帰り道、普段は通らない駅前近くの繁華街を歩いていました。そこは飲食店が多かったのですが、予備校もあったので若い年代の人も多く歩いていました。勝手の分からない地域だったので、あちこち見ながら歩いていると、一本外れた通りにパチンコ屋がありました。普通なら「あぁパチンコ屋か」で終わりますが、ゲーセン小僧は期待します。何故ならパチンコ屋の2階は大抵ゲーセン、しかも多国籍ゲーセンだからです。果たして「1play 50円」のノボリがあります!うおぉぉ、新しいゲーセン発見だぜ!私は勇んで階段を駆け上がりました。
そこは私の期待通りの薄暗いゲーセンでした。しかもアップライト筐体に混じってテーブル筐体(画面が地面と水平に設置されている、喫茶店とかに昔あった筐体)もあります。そして段ボールカバーも常備されていました。これは照明の光がモニターに映って見づらくなるのを防ぐため、モニター全体を段ボールの箱で覆ってしまうもので、テーブル筐体には必須のゲーセン手製アイテムでした。これがあるということは、いよいよ「濃い」ゲーセンに決まっています。早速ラインナップを見てみると「沙羅曼蛇(コナミ)」が「マーチポー」とか言ってますし、「バラデューク(ナムコ)」が「I’m your friend」とか言ってます。そのくせ「G-DARIUS(タイトー)」でクジラ相手にゴリゴリ稼いでいる猛者もいれば、「エドワードランディ(データイースト)」がムチを振り回して冒険百連発中です。その上「アフターバーナー(セガ)」まであり、まさにメーカーも時代もバラバラなのでした。
…こいつぁマジでえらい所に来ちまったぜ。そんな興奮を噛みしめながら、更に店内を探索します。薄暗い店内とは裏腹に、雰囲気は非常にアットホームで、格ゲー中心のゲーセンのような殺伐とした空気はありません。むしろ本当にゲームが好きな野郎共が集まっているらしく、店員と談笑する人もいますが、かといって馴れ合っている感じでもありません。まさに「ガチでゲームが好きな奴の溜まり場」でした。なかなか良い店を見つけたと嬉しくなった私は、早速何か遊んでみようと見回し、そこで暗い色調のゲームが目に入りました。それが「アウトゾーン」でした。
デモ画面を見て最初に感じたのは「これは『怒』だな」でした。またタイトーの「フロントライン」も何故か思い出しました。ともあれ、その手のアクションシューティングであることはすぐに理解できました。しかしそれらと明らかに違ったのは自機の放つ攻撃のド派手な蛍光カラーと、それと対照的な敵キャラのダークなメタリックさでした。そしてデモはストーリーを語ります。そこで浮き上がる「宇宙仕事人」の赤い文字。そしてタイトル下の東亜プランロゴ。当時「TATSUJIN(東亜プラン)」を愛していた私としては「これはやるしか!」とさっさとインストカードを読み、とっととコインを投入したことは言うまでもありません。
早速1面スタート。母船から降り立つ宇宙仕事人。持っている武器は16方向へ射撃可能、蛍光ピンクの宇宙バズーカです。全方位を狙うことが出来ますが、逆になかなか狙いが付けづらく、上手く敵に当たってくれません。堪らず赤アイテムボックスの「C」を取って宇宙二丁拳銃にチェンジです。これは前方固定の3方向ショットで蛍光イエローが美しい武器です。大体の狙いで敵に当たってくれるのでかなり楽です。どうもこっちが正解なのかしらと、白アイテムボックスからエネルギーを回収しつつ前進。1面とは言え、敵はなかなかきわどい攻撃をし、加えて弾速も速いので、やばくなったらすぐにボンバーです。
そして赤い敵を倒すと「SP」が出現しました。色は黄色。宇宙スーパーバーナーです。多分高威力なのでしょうが、射程が短く、また宇宙バズーカ同様16方向なので当てづらく、効果がよく分かりません。なので、目の前の赤ボックスから「C」を取って元の装備に戻します。あれは何だったのかしら…?と思う間もなく再び「SP」出現。今度は白、宇宙シールドを装着です。これで一発食らっても大丈夫だぜ!と思ってたらいきなり敵の体当たりを食らい、慌てたところに敵弾が飛んできて被弾、ミスとなりました。
その後も宇宙エネルギーエクステンドや宇宙スピードアップを取りつつ進み、しかしうっかり宇宙スーパーバーナーを取ってしまって劣勢に追い込まれ、3面ボスを目の前にゲームオーバーと相成りました。初プレイを終えての感想は「これは遊びやすいゲームだ」という思いでした。キャロットで遊んでいる「TATSUJIN」は本気で自機を殺りに来る攻撃ばかりなのに、「アウトゾーン」は敵弾は速いですが初見でも避けられる余地があり、またボムがガンガン出現するので回避しやすく、加えて「SP」の効果、特に宇宙シールドと宇宙スピードアップは攻略上マストなんじゃねぇのか、と思えるほど有効で、これがあるだけで弾除けが相当楽になるのでした(もっとも宇宙スピードアップは慣れないと簡単に穴に落ちますが)。
その後、私はその多国籍ゲーセンによく通いました(店名は失念、というか知りませんでした)。そして「バラデューク」の異常なむつかしさに震えたり、業界初のコマンド入力格ゲー「アッポー」を初めて見て戦慄し、でもプレイはしなかったりした後、「アウトゾーン」をプレイをしました。そして先の面にも安定して進めるようになってきた頃、私はこのゲームの本質を悟ったのです。
それは便利アイテム「SP」です。先述のように宇宙シールドと宇宙スピードアップは攻略上必須のアイテムですが、それ以上にこのゲームの難易度を大きく変えてしまう物がありました。それが紫SP、宇宙スーパーボールでした。この武器はボタン押しっぱなしで、モーニングスターよろしく紫色の何だかよく分からない球体を振り回すことができ、ボタンを放すと球体は前方へスッ飛んでいきます。そして恐ろしいことにこの球体、地形を貫通します。しかも威力がバカ高く、ボスも5回ヒットするだけで破壊出来るのです。まさに惑星破壊砲(ヴォルフィードとは別の)、世界の理を覆しかねないヴァジュラだったのです。
正直、宇宙スーパーボールさえあれば何も要らない、と言っても過言ではありません。しかしこのSP、出現するカラーがランダムで、1プレイ中に宇宙スーパーボールがじゃんじゃん出る時もあれば、1回も出ない時もあります。それどころか宇宙スーパーバーナーが連発した時はキレそうになります。ここにアウトゾーンの本質があります。即ち是「バクチゲー」。紫SPが出るかどうかがその後のゲーム展開を決定し、引いては宇宙仕事人の命運を大きく左右するのでした。
そうなるとプレイスタイルも変わってきます。SPは赤い敵を破壊することで出現しますから、もぅ無理矢理にでも赤い敵を倒しに行こうとします。で、無理がたたって被弾、あるいは穴に落ちて墜落、とかなるのです。しかし残機の1機や2機を屠ってもなお、宇宙スーパーボールは強力で、またその強さゆえの怪しい魅力に満ちているのです。ですから赤い敵を倒す時には「…紫…紫…」と怨念めいたモノを抱いていますし、ボムが出てもちょっとガッカリ、黄SPなぞ出た日には舌打ちです。
そして遂に出現した紫SP!狂喜乱舞でゲット!一気に引っくり返るゲーム性!…しかしあまりに簡単になり過ぎるため、少々の虚脱状態に陥り、言わば作業ゲーになってしまいます。だって地形に隠れて攻撃してれば良い訳ですし、豊富に出現するボムのおかげで、まずミスしません。ですから非常に気の抜けたプレイになってしまい、油断の塊となったところで、被弾。
ああぁあぁあぁあぁああぁあ!しまったぁぁあぁあぁああぁあ!
しかしもうどうにもなりません。強かった自分はもういません。再び宇宙二丁拳銃で少しずつ攻略していきます。そして赤い敵を見つける度に念じるのです。「紫…紫…」と。
というわけで、完全に宇宙スーパーボールにおんぶの状態で全面クリアを達成しました。そしてエンディングで仲間に衝撃に事実を知らされて2周目に突入するのですが、私自身どんなゲームでも「2周目」にあまり思い入れがないので、2周目以降はボンヤリと「本当に遊んでいた」のでした(もっとも「怒首領蜂」は2周目も真剣にやりましたが)。しかし1周30分となかなか「もつ」ゲームであったため、私は暇さえあればアウトゾーンをやり倒しました。しかしあまりに「もつ」ゲームだったためかやがて姿を消し、また私の大好物「リッジレーサー」がキャロットに入荷されたため、また進学のために上京したため、そのゲーセンからも足が遠退いたのでした。そして久し振りに故郷に帰ってきた時には、そのゲーセンは姿を消していたのでした。
しかし宇宙仕事人のスピリットは確実に私のDNAに刻み込まれたらしく、他のゲーセンでアウトゾーンを見つける度にプレイしてしまいます。そしてやっぱり紫を念じてしまうのです。結局「TATSUJIN」はクリア出来ませんでしたが、アウトゾーンは私がクリア出来る唯一の東亜プランのゲームとして、忘れられない作品となったのでした。
それではまた、十四回表でお会いしましょう。
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