日曜日。当時まだ週休二日ではなかった学生には完全休日(つまり一日完全に好き勝手出来る日)は貴重でありました。そしてゲーセン小僧であった私にとっても日曜日は別の意味で非常に貴重な日でもあったのです。
休みに限って早めに起き、さっさと朝食を済ませ、「友達と自転車で海に行く」とかなんとか理由を付けて家を抜け出します。当時、休日とは言え、午前中から出掛けるというのは中学生にはちょっと敷居の高いことでした。つまり「お前、こんな早くにどこ出掛けるんだよ」ということになるわけです。そしてゲーセン小僧ですから行く先はゲーセンに決まっているのですが、それでなくても当時は学校は勿論、家庭でもゲーセンに行くことはご法度でしたから、間違っても「朝からゲーセンに入り浸る」なんて言えるはずがないのです。ですからゲーセン仲間と口裏を合わせ、それっぽい理由をでっち上げるという、今考えると実に涙ぐましい努力(悪知恵とも言う)を働かせていたものです。
さていつもの商店街にメンバーが集まります。中には集合時間を過ぎても姿を現さない仲間もいて、つまり「脱出失敗」を意味します。しかし今日ばかりは冷徹に置いてきぼりを食わさなければなりません。集まったメンバーは急いでゲーセンに向かいました。
と言っても、いつものキャロットではありません。今日の目的地は商店街西にあるタイトー直営店「タイトーイン(後にコラムスで地獄を見る)」でした。正直申しますと、この頃のタイトーインには(当時の私とって)魅力的なゲームがあまりありませんでした(何故かあった「X-DAY」はサルのように遊んだが)。あるのはやっぱりスト2と色々なメーカーの微妙な格ゲー、あとはメーカー不問のレトロゲームがほとんどでした(今の私の大好物である「レインボーアイランド」や「奇々怪界」などがありましたが、私がそれをやりこむのは数年後のことです)。
じゃあなんでここに来たのか?それはなんとこのタイトーイン、日曜日開店直後には全ての筐体に1クレジットが入っているからなのでした!サービスクレジットというヤツでしょうか、アップライト筐体に限られていましたが、日曜朝イチに来ればどのゲームもタダで遊べてしまうのでした。金のない中坊はこのタダゲーを目当てに、わざわざ血を分けた肉親を欺いてまでここに来たのでした。
さてこのサービスは特に張り紙などのアナウンスはされていません。日曜朝イチにゲーセンに来てみようという奇特で酔狂な輩にしか知りえないマニアックなサービスだったのです。幸運にも仲間にそういう奇特で酔狂な野郎がいたので、この情報を掴むことが出来ましたが、しかし我々がこの情報を知り得た経緯を鑑みると、結構多くの人間がこのサービスを知っていると考えるべきなのです。実際、我々がゲーセンに着くと、既に数人の客がゲームを楽しんでいました。つまり早い者勝ち。ですから集合時間に間に合わなかった仲間を置いていかざるを得なかったのです。
ともあれ、まだまだクレジットの入っている筐体は残っています。どのゲームをやろうかと考えるわけですが、ここで我々は格ゲーをやろうなんて考えません。ただでさえ格ゲーブームで、それこそどこのゲーセンにも何かしらの格ゲーが設置してある時代です。わざわざリスクを冒してここまできて、なんで当たり前の格ゲーをやることがありましょうか、いや、ない(反語)。
ですからここは「日頃遠巻きに眺めていた、興味はあるけどやってみようか迷っているゲーム」を遊んでみるのが基本理念でベーリーベストであると言えます。ですからある者はタイトーの珍奇な恐竜格ゲー「ダイノレックス」をプレイし、ある者はディスクシステムで鍛え上げたという理由だけで「バブルボブル」に挑んでみたり、しかし単純に「もつ」からと「サンダークロス(コナミSTGにしては簡単だった、らしい)」を延々と遊ぶ者まで、まさに三者三様にタダゲーを楽しんだのでした。さて私は勿論「気になってたゲームをやる派」だったので、以前より目を付けていたゲームに向かいました。それが「ハレーズコメット」だったという訳です。
「ハレーズコメット」は1986年発表、私が中坊だったのは1990年代ですので、なかなかのレトロゲーということになります。小学生の頃にハレー彗星がどうのこうのというニュースや新聞記事を見た記憶がありましたが、不思議なことに、中坊の私にはそれらの記憶と目の前のゲームが全く結び付きませんでした。むしろ私はデモ画面の「チープな自機がチープな敵機を圧倒的火力で粉砕する」けれども「地球に衝突する巨大彗星」という、ある種カタストロフな光景に引き付けられました。まさに力と力のぶつかり合い。そして負ければ地球に彗星衝突!なんて分かりやすい世界観でしょう!既にハドソンキャラバンシューティングで地球の危機は嫌というほど体験してきたので、今更彗星がぶつかってくるくらい「あぁ、そろそろ来ると思った」くらいにしか思ってなかったのです(ある意味「ゲーム脳」とも言える)。
とはいえ、デモ画面の敵の攻撃もなかなか熾烈なものでした。自機狙いの高速弾は勿論のこと、破壊すると3方向に炸裂する機雷状の物やなんだか良く分からないマシンがぞくぞくと出現する物量攻撃を目にして、とても自分で対処出来る気がまるでしません。しかもここのタイトーイン、連射装置がありません。ハドソンのキャラバンシューティングのような家庭用なら連射装置(ジョイカードとか)でなんとか誤魔化せていましたが、しかしアーケードでの自分のシューティングスキルに今一つ自信がなく(まだオーダインに会う前だった)、またそのチープな画面にむしろ鬼難易度を感じた私は、コインを投入することが出来ませんでした。
しかし今日はタダでプレイ出来ます。何の心配もなくこのゲームの味を試すことが出来るのです。幸いクレジットも入っています。私は落ち着いて席に座り、インストカードを読みます。ふむふむ…、「敵を逃すと惑星破壊率が上昇し、100%でゲームオーバー」えーっ!?(画太郎風)そんなスパイシーな要素があるのか?全部の敵を倒せということなのか?で…、パワーアップが
「何かの形の絵」「何かの形の絵」「何かの形の絵」「?」
えーっ!?(画太郎風)…パワーアップの詳細がパーツの絵しか書いていない!文字による説明ゼロ!?しかも最後「?」ってどういうことだ?地球守る気あんのか!?
こいつはマジでえらいことになってきたぜ…。という訳でプッシュスタート。画面右端には地球と彗星の位置関係を示した簡易マップと惑星破壊率が示されています。牧歌的SFなBGMが流れ「地球を彗星から救え」と言われて自機発進。すぐさま敵機が飛来してきますので攻撃しますと、「スペースインベーダー」のような短いビームを数発発射。当然当たらず、敵機は画面後方へ消え、すると簡易マップ上で地球に数個の点が激突します。そして惑星破壊率上昇。えーっ!?(画太郎風)これヤバいよ!?
あまりの自機の貧相さに恐れ戦きつつ、何とか敵機を撃墜しますと、白色の小惑星が接近。壊すと中から棒状のパーツが出てきます。取ってみるとビームが太くなりました。続いて出現する小惑星から次々と「何かのパーツ」が出現。取れば取るほど、自機がスゴイ勢いでパワーアップしていきます。最初は小骨ビームのみだった時期が、今や極太レーザーに丸型ショットのインフレ武装を引っさげ、狙わずとも敵出現即破壊出来るまでになりました。
こうなってくると敵をバリバリ破壊するのが気持ち良くなってきます。が、敵の攻撃も激しくなり、弾避けも忙しくなります。結果画面上は自機弾と敵弾入り乱れるカオスとなり、とうとう敵弾を見失って被弾、ミスとなりました。油断しちまったな、とリスタートしてみますと、自機の装備最弱。でも敵の攻撃苛烈。えーっ!?(画太郎風)これ復活出来るの?圧倒的火力不足に押され、惑星破壊率はモリモリ上昇。それでもある程度まで装備を立て直したところで、中型機登場。結構堅かったですが、何とか撃破してエリア1クリアです。
エリア2では敵編隊が連続して出現し、また炸裂機雷が弾をばら撒きます。そこへなんだか良く分からないメカが乱入し、惑星破壊率が30%を超えます。そして敵弾に囲まれてしまいました。ここはボムを使って一掃だ!とボムボタンをポチッとな。直後画面一杯に赤やら青やら白やらの縦線が無数に走りました。壊れた!?と思いきや、画面は何事のなかったようにスクロールしています。右の簡易マップを見ると、自機の位置が後退しています。「…なるほど、逃げる意味合いしかないのか。まぁ、死ぬよりましか」と本当に壊れたかとビビった己のヘタレぶりを誤魔化し、しばらくするとBGMが変化。彗星表面に到着です。敵が次々と飛来、攻撃し、これに加えて彗星表面からも攻撃してきますが、彗星の砲門を無事破壊。エリア2クリアです。
惑星表面がみょーんと伸びて彗星内部に侵入。エリア3のスタートです。敵の攻撃もさることながら、壁際に設置された電磁バリアマシンも邪魔ですし、なんだか良く分からないマシンも立派に邪魔してくれます。敵の思惑通りに被弾し、最後の1機となった私は、ゲンナリするような最弱装備を少しずつ立て直し、そして遂に彗星中枢に辿りつきました。
巨大コンピューターを思わせる四角い物体は、目まぐるしく変形して複数の砲門を構える最終防衛ラインとなりました。全部で10門以上ある砲門から次々と攻撃が繰り出され、その背後からは敵機が飛来してきます。あらゆる方向からの攻撃は、まだ弾除けの基礎を会得していない私にはアドリブの連続でした。まさに神経を擦り減らす闘い。そして全門破壊!最終防衛ラインは大爆発し、自機はとっとと逃げたのであります。作戦成功!これで地球は守られたぜ!
精も根も尽き果てた私の前に映し出されたのは、複数の惑星が示された作戦図でした。で、地球の図から隣の金星の図へと矢印が伸びています。金星の次は水星、太陽、冥王星、海王星、天王星、…そして火星。えーっ!?(画太郎風)太陽系全部の惑星を守るの!?オレにはもう力が残ってないぜ!?(あと残機も)
そんな訳で金星編エリア1で全滅するわたくし。彗星も金星にストライク!という訳でゲームオーバーに相成りました。しかしなかなか楽しいゲームでした。自機が強くなった時の無双感と殺る気マンマンの敵弾幕との「ガチ」が非常に清々しく感じられました。まさに「一試合完全燃焼(アストロ球団)」です!
その後も今度は自腹で何回かプレイをしましたが、金星を守り切るのが精一杯であり、当時の私にはむつかし過ぎました。またタイトーインがホームグラウンドではなかったこともあり、週に1回プレイするかどうかでした。やがてハレーズコメットは姿を消しました。しかしチープな画面と牧歌的なBGMは、何故か私の心に強く残ったのでした。
そしてオーダインに出会い、様々なシューティングをプレイして、ある程度の基礎を身に付けた私は、再びハレーズコメットに挑みたいと思うようになりました。しかしハレーズコメットはもうどこにもありません。そんな頃、愚兄がゲームギア(GG)を購入しました。私も時折それを貸してもらい、「G-LOC」や「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を遊びました。
新たなソフトを求めゲームショップに行くと、そこには「ハレーウォーズ」がありました。それは「ハレーズコメット」の移植版で、少々のルール変更はありましたが、あの「惑星破壊率」は健在でした。私は迷わず購入し、アレンジされたBGMを聞き、相変わらずのシビアな弾避けを味わい、再戦を喜んだのでした。とはいえ、あのチープな本家「ハレーズコメット」を未だに求める私なのでした。
それではまた、十六回表でお会いしましょう。
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