小坂俊史 「ハルコビヨリ」

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 さて、今回ご紹介する作品は平成のウェルギリウス(誰だ)である小坂俊史先生の快作「ハルコビヨリ」であります。以前にご紹介した「新婚よそじのメシ事情」を足掛かりに、これまでに小坂作品をアレコレ読んできまして、やっぱり以前に紹介した「ラジ娘のひみつ」も、それはそれは傑作でした(でも打ち切りだった)。

 しかし!この「ハルコビヨリ」も勝るとも劣らない、忘れようにも思い出せない(天才バカボン)小坂作品の中でもブッチギリのトップと言っても過言な作品であります(じゃあ「ラジ娘」はどうなるのか)。それでは毎度おなじみ、カンタンなあらすじから始めましょう。

 

 

 そらく関東にある小さなアパートに一組のカップルが同棲しておりました。同棲ですからまだ結婚はしていませんが、便宜上、奥様の名前は永井ハルコ、ダンナさまの名前は里見靖(やっさん)。二人は大学であまりフツーではない出会いをし、全然フツーじゃないお付き合いをし、気が付けば同棲を始めてからはや一年半が経つほど馴染んでいました。

 …でも、ただ一つ違っていたのは、ハルコさんは天衣無縫で豪快奔放、破天荒なヒトだったのです…。

 

 

 ということで、本作は天和通りの快男児ことハルコさん(女性ですよ)が巻き起こす騒動とそれに振り回されるやっさんの、楽しくもヒドイ同棲生活を描いた作品なのです。元気なヨメと押され気味のダンナっていいますと、こいつはまんま「サザエさん」ですが、いやいや、小坂作品は「笑えない状況を笑う」が真骨頂ですから、ご想像の通り、そんな生やさしいものではありません。

 まず、何よりもまず、ハルコさんのキャラクターが強烈です。見た目はハツラツとしたキップの良い女性ですが、性格が色々と雑です。細かいことは気にしません。あと色々と雑です。また非常に力持ちで、すぐに物を壊してしまいます。あと色々と雑です。さらにはとんでもない酒豪です。あと色々と雑です。そして中身はまんまおっさんです。あと色々と雑です。なんかもう、言葉では説明しようがありません。

 しかたないので、本来はネタバレはしないのですが、ハルコさんの人となりを説明する意味合いで、本作から一つエピソードをご紹介しましょう。

 

 飲みに行こうと待ち合わせをしたハルコさんとやっさん。ハルコさんは「夜景の見える店に行きたい」とお願いします。いつにないお願いにちょっとドキドキするやっさん。ようやく見つけた夜景の見える店で、ハルコさんは「『パ』の字が消えたパチンコ屋の電飾」を食い入るように見つめ、それはそれは満足そうでした。やっさんガクーン。

 

 ね?もう分かったでしょ?ハルコさんはこういう人なんです。こういう人が通常では考えられない騒動を巻き起こすわけで、ココがまず本作の読みどころの一つです。で、こういう人と同棲しているダンナ、やっさんの苦労は火を見るよりも明らかなわけで、先のような「やっさんガクーン」「やっさん…ガンバ☆」と生暖かい目(主に「オレじゃなくてよかった」)で眺めるのが、本作のもう一つの読みどころと言えましょう。

 さて、本作はとかく「豪胆なハルコさん」「忍耐の漢やっさん」という図式に目が行き、またこのような「強い女性と耐えるオトコ」という図式は懐かしの「ダメおやじ」を思い出させます。しかし本作を読み進めていくと、この二人の関係が「強い女性と耐えるオトコ」とは程遠いことに気付くのです。すなわち、ある意味封建的なこのカップルですが、その実しっかりとラブラブなのです。

 

 作中、ハルコさんはそれはもう北斗羅漢撃ばりに大暴れします。飲み会が7次会に突入する、(電車の)信号機を壊す、やっさん相手にキャッチボール賭博を仕掛ける、嫌いな女優の名前だけで本気でキレる、やっさんに反省文を代筆させる、などなど。で、そのとばっちりをやっさんがもれなく被るわけです。

 しかしこのハルコさんの豪快奔放は「やっさんがいる」という安心感のもとに発揮されているように思えます。どんなワガママも、どんな傍若無人も、どんな猪突猛進も、結局やっさんが「ヤレヤレ」と後始末してくれる。そんな「全部許してくれるヒト」の存在が、ハルコさんを自由に振る舞わせているように見えてくるのです。

 もっとも、ハルコさんの口からそのような想いが語られているわけではなく、またそれを匂わせるようなエピソードがあるわけではありません。ただ自分の失敗(主に人様に迷惑をかけた)や武勇伝(食うか呑むか旅行に行くか)をやっさんに語る時のハルコさんは、口元に笑みを浮かべ、目を輝かせ、それはそれは楽しそうに語るのです。

 フツーの人なら眉をひそめそうな話でも、やっさんなら「お前はしょうがねぇな」と呆れながらも全部聞いてくれる。そんな安心感が見て取れ、それは取りも直さずやっさんへの信頼であり、深い愛情であり、極端な話、ハルコさんはやっさんにベッタリと甘えていると思えるのです。

 

 それというのも、おそらく相方であるやっさんの男っぷりが尋常ではないからでしょう。作中、やっさんはどんなにヒドイ目にあっても(ご安心ください、笑えるものばかりです)ハルコさんの後始末を止めません。どうしてそこまでと思ってしまいますが、所々で見せるやっさんの「ハルコさんに対するときめき」から、「あぁ、やっさん、ホントにハルコさんが好きなんだねぇ」と、今時珍しい一途な恋心を見せつけられ、妙に納得してしまいます。

 またやっさんはあまり前に出るタイプではないようで、グイグイ突き進むハルコさんに引きずられるように行動を共にしています。しかしそこには「面倒臭い」とか「ヒドイ目にあった」という表情は微塵もなく、むしろどこか楽しげに見えます。

 そのひたむき(?)なやられっぷりと一歩下がった立ち位置に、読者である私達はいつしかやっさんの中に真の漢を見出すのです(おおげさでもなんでもなく)好きな女にゃひたすら弱い、黙って尻に敷かれてましょう。まさに「男はつらいよ」の世界。本作は一見豪快な主人公の大暴れを笑う作品に見えますが、実はそれを支える男の物語でもあるのです。

 

 

 と、毎度おなじみ面倒臭い話になりましたが、「マンガは語るモノじゃねぇ!読むものだ!」ということで、こんなゴタクはさっさと大脳から消去して、こちらでとっとと試し読みすることを、そして本作を手にレジに並ぶことを(あるいはカートに放り込んで「レジにすすむ」ボタンを押す)強く強くお勧めいたします。

 

真の愛が、ここにある!(いいすぎ)

 


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todome

過去のホームページ時代より寄稿させていただいておりましたが、とある作品を完結させぬままに十数年すっかり忘れ、この度親方の号令により、再び参加と相成りました、todomeと申します。 主に小話を寄稿させておりますが、マンガ、ゲームにつきましても、今後ご紹介させていただこうかと思っております。どうぞお付き合いください。

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