いにしえゲーム血風録 八回裏二死 「ハドソンキャラバンシューティング(ヘクター’87編)」

ゲーム
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 さて「スターソルジャー」を題材に、熱狂の内に幕を閉じた1986年のキャラバンでしたが、成功の余韻に浸っている暇はありません。来年のキャラバン用に新しいソフトを開発しなければならないからです。しかしながらスターソルジャーは素晴らしいアイデアが詰め込まれていたが故に、「連射バリバリシューティング」で出来ることを全部やってしまった感がありました。

 仮に同じように「地上物空中物無関係に破壊可能」で「隠しボーナス満載」のゲームを作ったとしても、それは単なる自己模倣であり、少しの間であれば人気を維持することは出来るでしょうが、大局的に見れば先細りすることは目に見えています。これまで多くのゲームがシリーズ化に伴って深刻なマンネリ化に苦しんできた様は、皆さんも様々な形で見たことがあると思います。

 ですからハドソンはこれまでとは全く違う路線へと舵を切りました。つまり「連射バリバリ」をやめ、「隠しボーナス」をやめ、「敵の位置や動きを覚えて、確実に倒すことで先へ進める」という、ある意味王道ともいえるシューティングを作り上げました。それが今回ご紹介する「ヘクター’87」なのです。それではストーリーをご紹介しましょう。

 

 「星歴1024年、地球で勃発した第三次世界大戦は多くの人類の遺産を焼き尽くしてしまった。それら失われた過去の記憶を求めて、星歴4622年、時間旅行社の調査船団が太古の地球へと向かった。しかしそこで待ち受けていたのは謎のバイオメカ軍団であった。辛くも生き残ったただ1機の調査船「ノア号」はバイオメカの謎を探るべく、単身太古の地球での戦闘を開始したのだったのだった。」

 

 ということで舞台は太古の地球。壮絶なバイオメカとの戦いの始まりです。いや、コレは誇張でも何でもなく、本当に壮絶な難易度となっております。ともあれ、システムの紹介へと移りましょう。

 

 ゲームは全6面。奇数面は縦スクロール、偶数面は横スクロールとなっています。十字キーで自機ノア号を8方向に移動でき、Aボタンで対地攻撃である「クラスター爆弾(といっても炸裂とかはしない)」を発射、Bボタンで対空攻撃である「パルスガン」を発射出来ます。

 このゲームはライフ制、かつ残機制で、敵の弾を喰らったり、敵の体当たりを喰らうと画面左下のエネルギーゲージが減少し、ゼロになると爆発、ミスとなります。エネルギーは各面にいくつか配置されている「回復オブジェ(よく分かんない像やよく分かんないマシン)」に攻撃することで出現するエネルギーパックを取得することで回復出来ます。1つ取得で1メモリ回復し、オブジェを撃てば撃つほど出現します。残機を全て失えばもちろんゲームオーバーとなります。なお、パワーアップは一切しません。

 

 ここで各ステージの簡単な紹介をいたしましょう。どれも有名な古代文明が舞台となっております。

 

・1面:インカ帝国:森と荒野の中に佇む遺跡群は、既にバイオメカによって要塞へと改造されていた。無数の砲台、機雷を潜り抜け、ようやく海に出ると、そこには異様な形の兵器「イオタキャノン」が待ち受けていた。

・2面:マヤ帝国:太陽の帝国の遺跡もまた、バイオメカによって要塞と化していた。中へ侵入すると、そこは敵とトラップの巣窟。最深部にはマヤの神を模った兵器「マヤフェイス」が眠っていた。

・3面:アトランティス大陸:失われた大陸にはかつての繁栄を示す遺跡群が立ち並んでいたが、そこもバイオメカの根城となっていた。そこへ突如海よりアトランティス文明を転用した兵器「アトランコマンダー」が浮かび上がってきた。

・4面:エジプト:最も有名な古代文明は、既にバイオメカの手に落ちていた。ピラミッド内を進むが、もはや王家の栄光は見る影もなく、バイオメカが跳梁跋扈するばかり。中心部では棺を模った兵器「イージーゴーレム」が立ちはだかる。

・5面:ムー大陸:幻の大陸には遺跡はなく、一面の荒野と火山が広がるばかりであった。しかしここにもバイオメカの姿。攻撃は激しさを増し、一瞬の隙が命取りとなる。そして火山の頂から飛行兵器「ムーメダル」が飛来してきた。

・6面:邪馬台国:遂に敵の本拠地である東の果てに到達する。謎の建造物に侵入すると、執拗な敵の攻撃と周到なトラップが待ち受ける。壮絶な戦いの末、バイオメカの母体、「ヘクター」と対峙する。

 

 さてこのゲーム、縦スクロール面と横スクロール面ではゲーム内容がまるで違うと言っても良いくらいテイストが異なっています。いくつかを例に挙げて、それぞれの特徴をご説明いたしましょう。

 

・縦スクロール面(1、3、5面)

 先の2作品では地上物は攻撃してきませんでしたが、今回は空中物、地上物共に攻撃をしてきます。そして空中物には対空攻撃であるパルスガンで、地上物には対地攻撃であるクラスター爆弾で攻撃しなければなりません。回復オブジェも地上物なのでクラスター爆弾で攻撃しないとエネルギーパックが出現しません。クラスター爆弾は発射するとすぐに地上に落下し、何かにヒットするまで前進し続けます。

 また地上の特定ポイントには「配電盤」が隠されており、クラスター爆弾を1発撃ちこむと出現し、もう1発撃ちこむと破壊でき、この時画面上にある全ての地上物も同時に破壊出来ます。ただしあくまでも「画面上にある地上物」ですから、破壊したい地上物が画面内に入ったところで配電盤を破壊するようにしましょう。地上物の攻撃がかなり厳しいゲームですので、配電盤の位置や破壊タイミングを覚えることがクリアへの近道と言えます。

 さらに地上の特定ポイントには「ヘクターパネル」が隠されています。全部で6種類(「H」、「E」、「C」、「T」、「O」、「R」)あり、全て出現させると「ヘクターボーナス」として100万点ボーナスが獲得出来ます。わりと分かりやすく隠されているので、獲得は容易と言えます。

 

・横スクロール面(2、4、6面)

 横スクロール面でも空中物、地上物共に攻撃してきます。しかし横スクロール面では空中物、地上物の区別なく、パルスガンでもクラスター爆弾でも敵を攻撃することが出来ます。ですから、回復オブジェに対しても、パルスガンでもクラスター爆弾でも、ヒットさせればエネルギーパックが出現します。またクラスター爆弾は発射すると斜め前方に落下、地表に到達するとそのまま地形に沿って前進し、垂直な壁などにぶつかると消えてしまいます(グラディウスのミサイル的動き)。この挙動と理解していないと、すぐに敵に囲まれてしまいます。

 また横スクロール面では地形や火柱などの特定のギミックに触れると一発でミスとなります。これは回復オブジェも同様で、これに触れても一発でミスとなるので、回復を狙って近づきすぎると大変危険です。

 なお、横スクロール面にはヘクターパネルや配電盤は存在しません。

 

 さて今回は先の2作品とは異なり、敵出現は背景とリンクしております。ですから「ここまで来たらこの敵が来る」というシューティングでは王道の攻略が可能になるわけで、先の2作品のようなアドリブ性は求められないので、比較的パターン化は容易であると言えます。というか、敵の配置を覚え、パターン化しなければクリアは困難と言えます。実際、敵配置が絶妙にイヤらしく、初見ではまず敵に囲まれてやられてしまうでしょう。ですから、具体的には縦スクロール面では配電盤の位置、横スクロール面では敵の配置を覚えることが非常に重要となってくるのです。

 しかしながらそれを阻むのが「敵の硬さ」であります。このゲームは一度に出現する敵の数は多くはないのですが、特に空中物が非常に硬いことが特徴となっています。あまりにも硬いため、普通の手連射では破壊することもままなりません。事実、キャラバンでは連射装置であるジョイカードの使用が認められたほどでした。それでも敵が出現してから上手く撃ちこめないと、弾をジャンジャン撃ってきて、簡単にやられてしまいます。ですから攻撃してくる前に破壊しなければ先に進むことはむつかしく、これが難易度を急上昇させた要因でもありました。

 しかしながら、血の滲むような努力に対し、しっかりとした見返りをくれるゲームでもあります。つまり「覚えたなら覚えただけ先に進める」のです。何かとむつかしいと言われるこのゲームですが、しかし理不尽な攻撃やアドリブ性を要求してくる場面は皆無なので、敵配置と攻撃パターンをしっかり覚えれば、実は着実に攻略出来るゲームなのです(もっとも連射装置は必須だが)。

 またスターソルジャーのような派手さはないものの、ヘクター’87は渋い色使いの美しいグラフィックとなっています。どこか埃っぽさを感じさせるグラフィックは、太古の地球を表現するのにピッタリだったと言えましょう。またBGMが秀逸で、特に縦スクロール面の曲は名曲と言えます。これまたスターソルジャーのようなハイテンションな色合いではありませんが、孤独な戦いや古代文明の神秘、それにバイオメカの不気味さを上手く表現した曲だと思います。

 

 このように、1つのゲームで全く異なるテイストである縦シューと横シューが楽しめる内容となっているわけです。これはなかなか贅沢な仕様で、この点からも「先の2作品とは別の物を作ろう」という意気込みが感じられます。「スターソルジャーを越えるものを」というプレッシャーもあったかもしれません。そしてその分、開発に手間取ったのでしょう。ヘクター’87が発売されたのは1987年7月16日、キャラバン初日は1987年7月19日でした。つまり、最悪ソフト発売から大会まで3日しかなかったのです。

 これにはさすがのキャラバン参加者も参りました。こんな短期間(というか数日)では満足に練習も、それどころか普通の攻略も出来ません。また同様に困ったと思われるのが「コロコロコミック」です。スターソルジャーではキャラバン前から攻略情報を掲載し、雑誌売り上げの起爆剤となっていたのに、キャラバンの数日前では攻略情報を載せることも出来ません。

 また実際にゲームをプレイしてみて、キャラバン参加者は再度面喰ったことでしょう。何しろこれといったボーナスフィーチャーもなく、スターソルジャーとは違う敵出現パターンだったからです。つまり先の2作品は敵を素早く倒して次の敵を呼び出す「早回し」がハイスコアのカギでしたが、しかし今回は背景とリンクして敵が出現するので、出てくる敵の数は決まっていることになります。したがって、ハイスコアへの近道は「敵を一切逃さず倒し切ること」になるのです。

 結果、プレイヤーはガッチガチのパターン構築を余儀なくされます。ここには反射神経も連射能力も関係なく、ただただ「暗記」だけが必要と言えました。大会序盤はかなり地味だったのではないかと(私が勝手に)想像されますが、しかしここでハイスコアへの糸口を見つける者が現れ始めます。それは唯一の高得点敵キャラ「浮遊機雷」のマネジメントでした。

 

 浮遊機雷は1つ2000点と高得点で、縦スクロール面の地上物である発射口から出現します。しかしそのアルゴリズムは非常に複雑で、ある発射口からいくつ浮遊機雷が出現したかによって、次の発射口から出現する浮遊機雷の軌道が変化するのです。適当に破壊していると、いくつかの浮遊機雷は四散して逃げてしまいますが、発射口の破壊タイミングによっては、浮遊機雷が画面中央に集まるアルゴリズムが選択されるのです。こうなれば出現した浮遊機雷全てを破壊することは非常に容易になります。

 しかし当然のことながら、このようなアルゴリズムが仕込まれていることなど最初から分かるはずがなく、キャラバン終盤になってから判明し、「浮遊機雷を沢山出現させ、なおかつ破壊しやすいアルゴリズムが選択される発射口破壊パターン」が模索されることになりました。これに加えて普通の空中物、地上物も残らず破壊することも考慮に入れなければなりませんでしたから、更にガッチガチのパターン構築が求められ、下手をするとスターソルジャーよりも遥かに難易度の高いハイスコア争いであったと言えるでしょう。

 

 こうして見た目の派手さはなかったものの、1987年のキャラバンもハイレベルな戦いであったと聞きます。しかし先述のような発売日とキャラバン開催日が非常に近かったことによる練習不足や、参加者のほとんどが小学生であったため、このレベルについていけないプレイヤーも多く、そしてやはりスターソルジャーのような見た目の派手さに欠けたためか、残念ながら大会としての盛り上がりが今ひとつであったようです。

 

 しかしキャラバン向きではなかったとはいえ、ヘクター’87はシューティングとしては完成度の高い内容でした。結構「激ムズ」というレッテルが貼られがちなゲームですが、シューティング王道の攻略を楽しめる傑作であると思います。現在はGBAの「ハドソンベストコレクション」でプレイ可能ですが、ハードがハードだけにプレイが困難な方も多いでしょう。こちらで太古の地球を舞台とした死闘をご覧ください。

 

 その後、ハドソンキャラバンはハードをPCEへと移し、時には「パワーリーグ」という野球ゲームの時もありましたが、基本「ガンヘッド」や「スーパースターソルジャー」などのシューティングによるキャラバンを続けました。その際にはゲーム本編の他にキャラバン専用モードとして「2分間モード」と「5分間モード」の「キャラバンモード」が収録され、ステージも専用のものが用意されました(ヘクター’87にも2分間モードと5分間モードは用意されているが、前者は1面のみ、後者は1面と3面を繋げた構成となっており、専用ステージではない)。本編ではヘクター’87同様、背景と敵配置がリンクした構成になっていましたが、キャラバンモードでは出現テーブルによる敵配置となりました。つまり早回しが可能という訳です。そしてもちろん隠しボーナスも満載で、プレイヤーはキャラバン初期の「出現即破壊」の爽快感を再び味わうことになるのです。

 しかしキャラバンシューティングの楽しさは、やはりFC版の3部作に尽きる、と私は思います。思い出補正ももちろんあるでしょうが、後発のPCE版のキャラバンシューティングは、良く出来てはいますが、小奇麗すぎて物足りなく感じてしまうのです。それは思うに、FC版3部作の持つ、粗いドットであるが故の「怪しさ」が足りなかったからかもしれません。

 暗黒に浮かび上がる浮遊大陸ゴーデスの不気味さ。ビッグスターブレインと対峙した時に感じる荘厳さ。バイオメカ達の周到な攻撃の裏に感じる知性のようなもの。これら言葉に出来ない胸の高鳴りとは、FCのドット絵の粗さによってプレイヤーの想像力を掻き立てられ、無限大に増幅させられた子供たちの「ロマン」であったように思えます。そのようなロマンが感じられたからこそ、FC版キャラバンシューティング3部作は今も忘れがたい傑作として語り継がれているのかもしれません。

 

 

 それではまた、九回表でお会いしましょう。

 


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todome

過去のホームページ時代より寄稿させていただいておりましたが、とある作品を完結させぬままに十数年すっかり忘れ、この度親方の号令により、再び参加と相成りました、todomeと申します。 主に小話を寄稿させておりますが、マンガ、ゲームにつきましても、今後ご紹介させていただこうかと思っております。どうぞお付き合いください。

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