今回ご紹介するゲームはあのデータイーストより「トリオ・ザ・パンチ」です。前シリーズ「いにしえゲーム回顧録」において、私はデータイーストのことを、
「メーカー名を聞いただけで、既に良い予感がまるでしないというのは、
実はメーカーにとっては素晴らしいことです。」
と、ご紹介いたしました。そもそもデータイーストというメーカーは昔からどうかしていまして、出すゲーム出すゲーム、どれもが「珍奇」「珍妙」としか言いようがない代物ばかりなのです。
例えばアーケードでは、「パワーアップ・パワーダウン」ではなく、Eアイテムを取って「進化・退化・突然変異」をしてよく分からない敵と戦うSTG「ダーウィン4078」、強制スクロールアクションシューティングというハイブリッドな内容ながら、主人公は後ろに進めない上に名前がヤバイし、敵も謎な「チェルノブ」、そして「回顧録」でもご紹介した物多すぎSTG「ザ・グレイト・ラグタイムショー」など、他のメーカーでは絶対に作らないようなゲームばかりです。
かと思えば「ウルフファング」のような硬派でシブくてカッコイイゲームを作っちゃったり、「マジカルドロップシリーズ」のようなカワイイ感じのゲームも作るから訳が分かりません。また家庭用ゲーム機では「探偵 神宮寺三郎シリーズ」などハードボイルドなADVをリリースしたり、「ヘラクレスの栄光シリーズ」などのちゃんとしたRPG(初代はあまりちゃんとしていなかったが)を発表したりと、意外に常識人だったりします。
とはいえ、21世紀の人類の認識はやはり「どうかしているメーカー」であり、それというのも、今回ご紹介する「トリオ・ザ・パンチ」が原因としか言いようがありません。実際、ネットでこのゲームを検索すると面白いように「おかしい」以外の感想を見たことがありません。しかし同時に、どのレビューも実に楽しそうに筆を進めていることも事実で、珍奇ゲーでありながら誰からも愛されたという、何とも罪作りなゲームなのです。それではシステムからご紹介しましょう。
ゲームはサイドビューで、任意横スクロールの面クリア型ACTゲームです。プレイヤーは各ステージでザコ敵を倒し、時折出現するハートを集めます。一定数集めるとボスが出現するので、これを撃破すればステージクリアとなります(いきなりボスが出現するステージもある)。全35面を突破すればエンディングとなります。
操作系はレバー左右で移動、下でしゃがみます。ボタン1で攻撃、ボタン2でジャンプ、ボタン3でサブ攻撃を発動出来ます。サブ攻撃は1ステージ1回しか使えないので、慎重かつ大胆な判断が求められます。
このゲームはライフ制で、敵の攻撃を喰らうとライフが減り、全て失うとゲームオーバーとなります。ライフ回復やパワーアップはステージクリア時の「クリアーたからくじ」で取得することが出来ます。というか、「クリアーたからくじ」でしかライフ回復やパワーアップが出来ません。
「クリアーたからくじ」は1から6までの数字が円形に配置されたルーレットです。各数字の効果は以下の通りで、師匠で司会の「チンさん」が「あたり!よかったのぅ」とか「はずれじゃ」とか言ってくれるショートコント重要なフィーチャーであります。
・1:ライフ回復:ライフが幾分回復する
・2:メインアップ:通常攻撃がパワーアップする
・3&5:ダウン:通常攻撃、サブ攻撃共にパワーダウンする
・4:サブアップ:サブ攻撃がパワーアップする
・6:チェンジ:プレイヤーキャラを変更出来る
*なお、サブ攻撃が最強段階で「サブアップ」が当たると、何故か最弱状態になってしまうので注意が必要です。
さてプレイヤーキャラクターは3人おり、それぞれ攻撃方法やサブ攻撃が異なります(あたりまえ)。アクション、グラフィック共に、全員熱い漢です。
・タフガイ:サントス
緑のランニングシャツに野球帽を反対に被ったナイスガイ。己の拳のみで全てを切り開く、剛の漢。
通常攻撃
初期段階:パンチ:目の前の敵を殴る。上の方向にも攻撃出来るが、そんなに出番はない
2段階目:すなぶくろ:サンドバックで敵を殴る。見た目のインパクトは抜群
3段階目:てつのつめ:パンチよりもリーチが長い。それだけ
4段階目:ふうけん:パンチしながら前方に猛ダッシュ出来る。もはやドラゴンボールの世界
サブ攻撃
初期段階:かつ:「喝!」と叫び、画面全体攻撃が出来る。威力は微妙
2段階目:ホーミングかつ:「喝」の文字が4つ、ホーミングで飛ぶ。威力は微妙
・忍者:カマクラ
常に前傾姿勢の忍。豊富な忍術と使え過ぎる手裏剣を武器に、何だか分からない敵を撃破する。
通常攻撃
クナイで切りつけるだけだが、ジャンプ攻撃が手裏剣で遠くから攻撃出来るスグレモノ。パワーアップすると、クナイは変化せず、手裏剣が「単発手裏剣→巨大手裏剣→手裏剣2連射」と変化する。
サブ攻撃
初期段階:いわおとし:画面上から巨大な岩が落ちてきて、地面で2つに割れて左右にスッ飛んでいき、ダメージを与える
2段階目:かえん:画面上にリング状の炎を飛ばす。炎は画面端で反射するので、ほぼ全体攻撃。一定時間で消える
3段階目:ぶんしん:自分の分身が1体出現する。行動に少しタイムラグがあるが、便利
4段階目:ばくだん:自爆する。でもダメージは喰らわないので、つまり忍術
5段階目:ひてん:画面下から刀が何本も飛んで来る。全体攻撃で、一定時間で消える。つまり忍術!
6段階目:がま:カエルを4匹召喚する。敵に当たるとダメージを与えられる。でもそんなに威力はない
・剣士:ローズサブ
鋼の肉体に比類なき剣技を備えた兵。名前については考えてはいけない。
通常攻撃
・初期段階:たいまつ:たいまつを振って攻撃する。リーチは短い。剣士じゃなかったのか
・2段階目:Sソード:たいまつよりもリーチが長い。ようやく剣士なった
・3段階目:Lソード:もっとリーチが長くなる。いっぱしの剣士である
・4段階目:Mスター:モーニングスターのこと。リーチがバカ長くなるが、ここまでの道のりも長い
・5段階目:Sたいまつ:たいまつに戻ってしまうが、炎を飛ばすことが出来るようになる。剣士は卒業だ!
サブ攻撃
・初期段階:じしん:地震を起こして画面全体を攻撃する。キメポーズがカッコイイ
・2段階目:Sじしん:地震に加えて弾が飛ばせる。威力は微妙だが、キメポーズがカッコイイ
・3段階目:ブラボー:地震に加えてたくさん弾が飛ばせる。キメポーズがカッコイイ
…以上3名の猛者が挑むのは、そこはデータイーストですからよく分かんない敵に決まっています。ザコ敵からして「ハゲのおっさん(どうやらデータイーストのACT「カルノフ」からのゲスト出演らしいが)」、「ガイコツ」、「ゾンビ」、「不良」、「忍者」、「スライム」と、まるで一貫性がありません。一応ステージは「太古」→「現代」→「日本」→「未来」と変化し、それに合わせてザコキャラもデザインされているようですが、やっぱり一貫性はありません。
これに輪をかけて、ボスキャラもよく分かんないことになっています。1面からして「変な謎の像」で、その後「デカい手」、「ピンクの羊」、「デカい足」、「だるま」、「巨大招き猫」、「しゃちほこ」、「装甲スライム」と、意味を追うのが無駄になってきます。しまいには「チンさん」まで襲ってくるから油断なりません。
そもそもストーリーが全く分からない点からして暴走確定なのです。インストカードにも、タイトルデモにも、果てはエンディングでもストーリーは語られません。つまりどこで、どうして、何と戦っているのか、まるで謎のままゲームは進行していくのです。
しかし…、なんでしょう…、この我々を惹き付けて止まない魅力は…。自機キャラも、敵キャラも、ステージも、ストーリーも全く意味不明でありながら、どんなゲームにもまして「ゲームを遊んでる感」をビンビン感じられるゲームなのです。
正直、後半は敵がやたら固くなり、ひたすら攻撃を繰り返すだけの単調な流れになってしまうのですが、しかしこのゲームを遊ぶと、実はゲームとは「自機を自由に動かせること」が楽しいのであって、ストーリーの深さやグラフィックの美しさは二の次であることを痛感させられてしまいます。
さて「グラフィックは二の次」とは言ったものの、本作のグラフィックの書き込みは灼熱です。特にゲーム冒頭のキャラクター選択画面でのグラフィックは、21世紀の人類には描けないレベルです。またゲーム本編でもむやみに濃いグラフィックが連発で、一度見たら思い出そうにも忘れられません。
またゲーム中はそれぞれのキャラクター固有のBGMが延々とループします。ボス曲とか、クリアーたからくじの曲とか、そんなものありません。ひたすらキャラ固有のBGMが流れ続けます。しかしこの曲がどれもエラくカッコイイ!特にタフガイ・サントスのテーマは私のお気に入りで、人生の勝負曲と言っても過言ではなく、仕事中でも不意に頭の中で勝手に再生され、馬力が上がります(ミス率も上がる)。もはや洗脳という言葉が一番シックリ来るBGMと言えるでしょう。
そんなわけで、確かにこのゲームは色々とバカです。しかしどんなゲームよりもゲームの根源的楽しさを追求していたがために、多くのゲーマーから愛されたのではないか、とも思います。だからこそ、多くのレビューが執筆され、そのどれもが楽しげなのでしょう。
そして残念ながら、私の拙い筆ではこのゲームの魅力をお伝えし切ることが出来ません。現在はPS2に移植されていますが、出回りがあまりにも悪いので、見つけることは困難かと思います。そこでこちらで20世紀最大のカオスゲームをご覧ください。そしてこちらで20世紀最高のゲームミュージックをお楽しみいただければと思います。そして、もし、どこかのゲーセンで見かけましたら、是非プレイしていただきたいと思います。お願いします。損はさせません。
それではまた、十一回表でお会いしましょう。
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