私は暇さえあれば某書籍通
…もういいですね?まぁいつものように例のサイトで例の如く「コレ、面白いッすよ」ってな感じで見つけた本ですよ。聞いたことのない作家さんでしたが(というか作者名が読めなかった)、綺麗な絵柄が気になったので作品説明を読み、なんだか面白そうなので読んでみました。お話はこんな風に始まります。
高校生の桜庭くんはアニメやゲーム、それに萌え系絵師が大好きな、いわゆるオタクさんです。でも堂々とオタクであることを公言しています。さて、そんな彼の席の隣は才色兼備と名高い柏木さんです。桜庭くんは柏木さんのことを「三次元で初めて綺麗な女の子だと思った」のですが、しかし桜庭くんが幼馴染みの草野くん(非オタク)に自分のオタク話をしていると、柏木さんはそれはそれは恐ろしい顔で睨みつけてきます。柏木さんはオタク嫌いなことで有名なのです。
さて、桜庭くんは念願のアニメショップのアルバイトが決まります。好きなものに囲まれて、その上お金まで手に入り、それでアニメグッズを買うという天国ループです。楽しく仕事に勤しむ、そんなある日、自分の学校の制服を着た女の子をお店で見かけます。学校から距離があるのになぁ、と思っていますと、その子がおもむろに振り向きます。それはあの柏木さんでした…。
柏木さんは桜庭くんの姿を見るや否や、慌てて逃げ出してしまいます。翌日、桜庭くんは柏木さんに校舎裏に呼び出されます。柏木さんに「誰にも言わないでほしい」とベソかきながら頼まれてしまい、それに押されて桜庭くんは「秘密は守る」と約束します。それでも柏木さんは心配で、桜庭くんの一挙手一投足に警戒してしまいます。しかし約束通り、誰にも秘密を言わなかった桜庭くんを柏木さんは信頼し、何か話をしてみたい、と思うのでした。
と、まぁ、高嶺の花と思っていた女の子が、自分と同じオタクさんだったわけですね。これを機に、桜庭くんと柏木さんはオタク仲間として、放課後にこっそりと会ってオタク談義に花を咲かせ、交流を始めるのですが、書籍サイトのレビューでも挙げられているように、「どっかのギャルゲーみたいなベタな話」に思えます。
…しかし全巻(全12巻)読み終え、私が思うにこのお話、実は「他人と交流するとはどういうことなのか」を実に上手に掘り下げて描いている作品だと思います。
まず桜庭くんは実にオープンなオタクさんです。しかし自分のオタク趣味を追い求めるあまり、時折周りが見えなくなって自己中心的な振る舞いをしてしまったり、空気が読めなくておかしな言動をして失敗したりしています。平たく言えば、対人関係が少々苦手なのです。
対して柏木さんは、小学校の頃、友達がアニメが大好きな男の子のことを「キモい」と言っているところを目撃してしまい、自分がアニメが好きなことが知られたら、同じようにキモいと言われるのではないかと恐れ、人付き合いが怖くなってしまいました。平たく言えば、こちらも対人関係が少々苦手なのです。
このように、主人公2人はどちらも対人関係が苦手なのです。しかしオタク趣味という共通項を橋渡しに、それぞれ初めて積極的に「他人」と向き合うことになります。始めは他愛のないオタク談義で2人は距離を縮めていきます。しかし、そこは対人関係が苦手な2人のこと、色々と問題が生じます。
桜庭くんはオタク趣味が昂じ過ぎて暴走し、柏木さんを困らせたり、時には泣かせてしまったりしてしまいます。対して柏木さんはオタク趣味を隠そうとするあまり、普段の教室で桜庭くんに話しかけられても少々冷たい態度を取ってしまいます。
要は2人とも、対人関係経験の乏しさからか、自分のことを優先してしまうわけです。ここでそれぞれの幼馴染みが絡んできます。
桜庭くんの幼馴染み、草野くんは、幼馴染みらしく、実にストレートに桜庭くんの悪い所を指摘し、柏木さんとなかなか親密になれない点を「ヘタレ」と優しく一刀両断します。一方、柏木さんの幼馴染み、福田さんは心から柏木さんを大事に思っています。しかし大事に思い過ぎるあまり、柏木さんに何か困ったことがあると、その対象を徹底的に排除に向かいます。柏木さんには優しい相談相手なのですが、桜庭くんには容赦しません。ですから先の「桜庭くんが柏木さんを泣かせてしまった」時は、烈火の如く激怒し、時には暴力に訴えることも厭いません。
結局いずれの場合も、桜庭くんがめっちゃ怒られることになるのですが(主に福田さんに。しかも時として殴られる)、しかし結果として2人の交流をサポートしていると言えます。もっと言えば、「人と付き合う時はこういう事に気を付けなければいけない」と教えているのです(あと桜庭くんのバイト先の店長もいい仕事してくれます)。
2人は幼馴染み達の奮闘や周囲の人の助言により、自分達に何が足りないのかを自覚していきます。そして少しずつ、より深い関係を築いていき、また2人の交流そのものを通して、「他人との交流の仕方」を学んでいきます。やがてお互いの存在について考え始めます。すなわち、「自分にとって相手はどんな存在で、また相手にとって自分はどんな存在なのか?」ということです。
同好の士である2人ですから、それは「どうすれば相手は喜んでくれるだろう?」という問いに繋がります。一言で言えば「相手を思いやること」であり、それはつまり「恋」へと繋がっていくのです。それには「相手がどういう人間か」を理解する必要がありますし、「自分はこういう人間である」と正しく伝える必要もあります。対人関係に乏しい2人にはむつかしい問題ですが、しかし2人はゆっくりと、しかし確実に、お互いを理解していくのです。
また桜庭くんと柏木さんの関係だけでなく、他のカップルの関係性(「馴れ初め」だったり「ラブラブ」だったり)も丁寧に描かれ、それを主人公2人はあーでもない、こーでもないとドキドキして見守っています。つまり観察学習ですね。これらを通しても、2人は「良い関係」について学んでいくのです。
このように、このお話は単なるラブコメではなく、「対人関係が苦手な者同士が、人との付き合い方を実地で学んでいく」話でもあり、主人公以外のカップルの話も絡んでいることから、先にも述べましたように、「他人と交流するとはどういうことなのか」を細かく丁寧に描いている作品だと言えるのです。
…しかしながら、なにせ主人公の2人が「対人関係が苦手」なものですから、世慣れた人から見れば、非常にもどかしく、ヤキモキさせられるかもしれません。しかしそれだけに、主人公2人が関係を深める瞬間の何とも言えない暖かさは、おっさんの私でもドキドキしてしまいました。あぁ、恋ってステキね…。
さて絵柄ですが、非常に丁寧でキレイです。特に主人公2人、桜庭くんと柏木さんの不器用で、臆病で、でも心優しい面が、セリフと表情が上手く噛み合って、鮮やかに表現されています。「あぁ、オレがゲーセン小僧だった時も、こんな風に同じ趣味の女の子と過ごしたかったぜ…!」と本気で悔しがるレベルです(しかしSTG好きの女の子というのはあまり聞いたことがない)。そして柏木さんがとても可愛らしく、何気ない1コマでも和みます。対して背景は簡素ですが、この話のウェイトが何かを考えれば、むしろ効果的に思えます。
そんなわけで、単なる萌え系と思わせながら、実は結構深いテーマで、しかもドキドキさせてくれる良い作品だと思います。こちらで試読出来ますのです、もしお気に召しましたら、是非手に取って、2人の行く末を見届けていただければ幸いです。
読んで頂いてありがとうございます!
↓↓このブログ独自の「いいね!」を導入しました。少しでもこの記事が気に入って頂けたら押して頂けるとうれしいです。各著者が無駄に喜びます(・∀・)イイ!! よろしくお願いしますm(__)mtodome
最新記事 by todome (全て見る)
- ショーの裏側見せますの巻 (映画「地上最大のショウ」) - 2021年2月20日
- きになるお年頃の巻 - 2021年2月17日
- 甘い生活の巻 - 2021年2月8日
- 冬のお供といえばの巻 - 2021年2月3日
- いにしえゲーム血風録 二十二回表 「イメージファイト(ポッド編)」 - 2021年1月30日
コメント