カート・ヴォネガット 「タイタンの妖女」

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 今回ご紹介するのは、私と実にフシギな因縁のある作品(思い込み)「タイタンの妖女」であります。少し横道にそれますが、どう因縁があるのかをまずお話させてください。

 

 私はSFが大好きなのですが、1人の人間が探せるタイトル数などたかが知れており、熱帯雨林でオススメをさらっても、おんなじタイトルを何度も勧められ、おんなじ所をグルグル回り、堂々巡りの目眩まし、まさにドグラマグラ世界に飲み込まれてしまうのです(意味不明)

 そんな時はネット上のSF感想サイトなどを見て、新規作品を開拓することにしています。同好の士が「これ、オモチロイよ。」という作品を簡単なあらすじ付きで紹介してくれるのですから、二日酔いに喰うチキンラーメン並に信頼のおけるものと言えるのです(二日酔いがスッキリするのよ)

 で、どの感想サイトでも必ず取り上げられているのが本作「タイタンの妖女」で、しかもネタバレを避けるためなのか、どのサイトも内容についてほとんど触れていません。はて、たいそう面白いらしいのに、どうして詳しい内容が語られないのかしら。私は興味を覚えましたが、しかし内容がさっぱりわからんちんだったため、書店で見かけても手に取る勇気が起こらなかったのです。

 で、少し前にBSの映画劇場で「スローターハウス5」を見ました。奇想天外な珍奇SF作品と思いきや、異常に異様に深い内容に私はたまげてしまい、やや興奮気味にこのブログで紹介いたしました。で、先日再び書店で「タイタンの妖女」を見かけ、この時はどういう訳か手に取って解説に目を泳がせますと、何とそこに「スローターハウス5」の文字があるではありませんか。

 そうです、「スローターハウス5」の原作者は「タイタンの妖女」と同じ、ヴォネガットだったのです。運命なんて信じませんが、いやぁ、この時は宿命を感じましたねぇ、北斗の拳ばりに。「天命なり!(あるいは「天破活殺!」)」と絶叫したかどうかは別として、私はすぐに購入し、先月読み終わった、という訳なのです(以上、因縁終わり)

 

 さて、ここで本作のあらすじをご紹介したいのですが…、偉大なる先達は皆、あらすじ紹介を避けていました。今、本作を読了した私には、その気持ちが痛いほどよく分かるのです。そしてまた、あらすじがさっぱりわからんちんでは、書店で見つけても手に取るまでには至らないという気持ちも分かるのです。そこで今回は、本書の裏表紙に書かれたあらすじにちょっとだけプラスしてご紹介したいと思います。

 

 

 火星近くの超空間に飛び込んだラムフォードは、あらゆる時と場所に存在する存在となった。全てを知るラムフォードは人類の導き手として活動を始め、その最重要課題が全米一の大富豪、マラカイ・コンスタントを導くことであった。コンスタントはラムフォードに招かれ、ある予言を授けられる…。

 

 

 上記は物語の冒頭部分なのですが、何のことやらさっぱり分からないですね。仕方ないので、読了した私の雑感をつらつらとお話ししましょう、ネタバレは出来るだけしない方向で。

 

 ヴォネガットは「巻き込まれる人」というモチーフを幾度となく取り上げているのですが、本作もまさにそれで、先日ご紹介した「スローターハウス5」もそうでしたし、やはりヴォネガットのナンセンス終末小説「猫のゆりかご」もそうでした(こちらは先週読み終わった)。本作では主人公であるコンスタントはこれでもかとばかりに、様々な事件に巻き込まれてしまいます。

 少なくとも私が触れたヴォガネット作品の主人公たちはどれもが「本人の意思とは関係なく、壮大な運命に巻き込まれていく」というものでした。これを大げさに考えれば「人間の自由意思とはなにか」という話になります。自由意思とは「『どのようにモノを考えるか』が自由である」ということで、一見ほとんどの人が自由意思を持っているように思えますが、よくよく考えますとちっとも自由でないことに気が付きます。

 

 何かモノを考える時、私達は様々な制約の元で考えているようです。例えば宗教的理由でブタを食べられない人は、ブタについて考える時には「食べ物」という概念など端からないでしょう。また日本における一種の美徳である「勤勉さ」から見たら、定年後の有り余るほどの時間というのは信じがたいものかもしれません。より身近な例ならば、甘い卵焼きを作る関東の人から見れば、関西の塩辛い卵焼きなど想像の範疇を越えるのです。

 つまりどんな人でも何かしらのフィルターを通してでしかモノを考えられないわけです。しかしこれは一般的でごくフツーの当たり前のことですし、また、このフィルターのおかげで、考えが広がり過ぎて支離滅裂にならなくて済んでいる側面もあるのですから、「あぁ、オレはいろんなものに縛られている!」と嘆くこともないのです。

 ただ、このようなフィルター、いわば思考のしがらみのせいで、その人の人生が、もっと言えば世の中が大変な方向に流れてしまうこともあります。20世紀末のバブル経済などは、皆が「株価が上がり続ける」と考えた結果起こりました。外国人に対する偏見も、その国の慣習に対する無理解と、それを自分の国の慣習に当てはめようとすることで生じます。思えば先の戦争も様々な思考のしがらみのせいで引き起こされたようなものです。

 

 本作もつまりはそういう話なのです。主人公のコンスタントも、彼に予言を授けるラムフォードも、さらには地球に住む全人類も、自由意思を持っているようで、実は「思考のしがらみ」に翻弄されているのです。すなわち、コンスタントはラムフォードの予言に翻弄され、全人類はラムフォードの「導きという名の操作」に翻弄され、当のラムフォードもまた、図らずも知ってしまった真実に翻弄されるのです。本作は自由であると信じながら、実は逃れることの出来ないしがらみ、まさに宿命に翻弄される人達の物語なのです。勘の良い方であれば「全てを知る存在から予言を授けられる」という点で、なんとなくお分かりでしょう。

 そしてもう1つ、本作には毒があります。それはラムフォードが知ってしまった「真実」で、これこそが本作における最大の仕掛けなのですが、それはあまりにも巨視的で、大胆で、実にバカバカしいものなのです。しかし、これをただのSFの絵空事と私は考えることが出来ませんでした。このような真実が、大なり小なり、多かれ少なかれ、現実世界でも起こっているのではなかろうか…?そんな予感を抱いたのでした。

 

 

 以上が私の抱いた雑感であります。恐らく、というか間違いなく、未読の方にはさっぱり分からないでしょう。ネタバレを避けるとこうなってしまうのです。なるほど、先達が詳しい紹介を避けたわけです。しかしもし、この私の雑感を読んで本作に興味を抱かれたのであれば、今すぐにでも書店なりで手に取っていただきたいと思います。

 あ、最後にもう1つ。非常に深いテーマを扱っている本作ではありますが、語り口は軽妙かつナンセンスで、ところどころで笑えます。なので、あまり警戒せず、ちょっと不思議なおとぎ話のような感覚で楽しんでいただければ、と思います。

 

 

 *いつもなら最後に熱帯雨林へのリンクを張るのですが、出来ればこれ以上の事前情報なしに読んでいただきたいので、張りません。


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todome

過去のホームページ時代より寄稿させていただいておりましたが、とある作品を完結させぬままに十数年すっかり忘れ、この度親方の号令により、再び参加と相成りました、todomeと申します。 主に小話を寄稿させておりますが、マンガ、ゲームにつきましても、今後ご紹介させていただこうかと思っております。どうぞお付き合いください。

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