時は1990年。中学生になった私はまだゲーセン小僧ではなく、もっぱら友人の家に遊びに行き、そこでゲームを触らせてもらっていました。そう、まだ家庭用ゲーム機の購入が許されていなかったのです。ここまで来ると、もしや両親はゲームに何かしらの恨みを持っているのではないか(例:スペースインベーダーに注ぎ込みすぎて、しばらく白米と塩だけだった、とか)と勘繰るほどでした(実際はテレビが1台しかなかったから、らしい)。
それはさておき、その日遊びに行った友人の家には当時のボンクラ共の憧れ、PCEがありました。しかも何しろ金持ちの倅だったので、もう唸るほど沢山のソフトを持っていました。ロンチソフトである「カトちゃんケンちゃん(激ムズ)」はもちろん、「ギャラガ’88」や「オーダイン」もありました。
さてその中に「源平討魔伝」があったのですが、友人達のプレイを見ただけでも、相当むつかしいゲームであることが分かりました。主人公であろう黒い甲冑を着たキャラクターが小さい時の面は、ジャンプさえ気を付ければそれほどの難易度ではないようでした。しかしキャラクターを大きくなった面では、非常にシビアな操作が求められているようでした。主人公は敵にダメージを与えようと一心不乱に剣を振り回しますが、しかしことごとくガードされ、逆に不意打ちを食らう始末です。そして結局力尽き、画面上方から「完」のデカい文字が降ってくる。そんな繰り返しだったのです。
これを見て、いつも通り私は尻込みしてしまいました。持ち主でさえ満足にプレイ出来ない難易度なのです。どうしてゲーム機を持っていないようなゲーム弱者の自分がクリア出来ようか。いや、出来ない(反語)。それでもなくても肩身の狭い思いで(当時はゲームの貸し借りがある種のステータスでもあったので、ソフトを持っていない私は底辺であった)プレイさせてもらっているのですから、貴重な1プレイは長く楽しみたいのです。ということで「ギャラガ’88」をプレイするのですが、トリプルファイターを狙って爆死するのはお約束というものです。
そんなわけで、私の源平討魔伝とのファーストコンタクトは「ムズい」の1点のみで、大きなキャラが動くグラフィックや和風でありながらロック調のイカしたBGMなどは、確かに目を惹きましたが、しかしおぼろげに記憶に留まっただけだったのでした。
さて時は下ってゲーセン小僧となった私は、いつものようにナムコ直営ゲーセン「キャロット」に向かいました。するとレトロゲームのコーナーにどこかで見た光景が移っています。黒い甲冑のキャラが、画面を所狭しと飛び回っています。…あぁ、源平討魔伝だ、と気が付くのには時間が掛かりませんでした。が、即座にあの友人宅での光景が思い出されます。次々と討ち取られる主人公。次々と降ってくる「完」の文字。そのあまりにもネガティブなイメージが強すぎたため、私はいつまでもデモ画面を見つめることしか出来ず、結局いつものやりなれたゲーム(スノーブラザーズとか)に流れてしまい、とうとう私はキャロットで源平討魔伝をプレイすることはなかったのです。
さらに時は下り、高校生になった私は、やっぱりゲーセン小僧ではありましたが、以前のようにのめり込めるゲームに出会えていませんでした。そう、このコラム恒例の「格ゲー時代」の到来です。もともとACTかSTG専門で、しかもコマンド入力が満足に出来ない私でしたから(波動拳が出せないほど重症)、ゲーセンに行っても格ゲーの賑わいを遠目に見るばかりでした。
ではその頃の私は何のゲームをしていたのか?ここで登場するのが私をゲームの世界に引き込んだ、毎度お馴染み長兄であります。この長兄、何を思ったのかPSを発売日当日に購入したのです。そう、遂に我が家にもゲーム機が到来したのです!黒船バンザイ!
とはいえ、当時PSソフトは1本6000円前後しましたから、貧乏高校生がおいそれと買えるものではありません(月の小遣いは5000円。しかも家業が自営業だったので、その手伝いに駆り出されバイトも出来なかった)。またPSといえばFC同様に「玉石混合」でしたから、まだネットが普及していない中、雑誌やカタログを中心に情報を収集し、吟味しなければなりませんでした。
しかし情報を集めれば集めるほど、余計に迷ってしまうというのは世の常です。その上、小遣いのほとんどは、のめり込めるゲームがなかったとはいえ、ゲーセンに流れ込んでいましたので(少ないながらもSTGはリリースされていました)、ソフトを買う金なんぞありません。結局私がPSのソフトを購入するのは東京に移り住んでから(しかも中古)、ということになりました。
つまり実家のPSで遊んだソフトというのは、余すことなく長兄が購入した物だったわけです。しかしそこはゲームに関しては一日の長がある長兄です。高確率で当たりを引いてきます。3DRPGの始祖とも言える「キングスフィールド」や名作ながら超難解なADV「MYST」、かと思えば珍奇ゲー「太陽のしっぽ」など、長兄はその独自の嗅覚でPSを遊び倒していました。
さてPSがリリースされてから間もなく、ナムコは自社の作品集である「ナムコミュージアム」を発売します。これは往年のナムコの名作の何本かを1つにまとめ、それらがほぼ完全移植でプレイ出来ることはもちろん、作品に関する資料も閲覧出来る、ナムコファンには堪らない内容となっていました。例えば「VOL1」では「パックマン」、「ラリーX(ニューラリーX)」、「ギャラガ」、「ボスコニアン」、「ポールポジション」、「トイポップ」の6作品も収録され、それぞれに設定資料やインストカード、宣伝チラシやPOP、ドットパターンやBGMの試聴、それにゲーム攻略に役立つTIPS(豆知識)なども収録されていました。しかもこれら設定資料は「博物館に所蔵されている」という設定で、プレイヤーは実際にポリゴンで作られたVR博物館内を歩き回り、閲覧出来るという趣向でした。
さぁ、このようなゲーム好きの琴線に触れるようなソフトを長兄が買わないわけがありません。当然のように発売日に買ってきて、ギャラガを飽きるまでプレイしたり、それぞれのゲームの設定資料を「へェー」とか「はァー」とかボンクラ丸出し言いながら眺めたりと、相当楽しんでいました。そしてもちろんこの私も、それらのゲームをプレイし、当時のゲームのストイックさや、実は緻密に練られた設定などを見て楽しんでいました(実際、これがきっかけで私のレトロゲーム好きが始まるのです)。
そしてナムコミュージアムは「VOL2」、「VOL3」と続き、そして「VOL4」ではついに源平討魔伝が収録されました。長兄はひたすら同時収録の「イシターの復活(「ドルアーガの塔」の続編。吐くほどむつかしい)」をプレイしていましたが、私は何故か源平討魔伝に惹きつけられました。
確かにあの友人宅では阿鼻地獄ばかり見せつけられましたが、しかしやはりゲームとして何か面白そうな匂いがしていたのでしょうか。私は誘われるように、真っ先に源平討魔伝のブースに入りました。そして中に陳列されている基盤やPOP、そしてストーリーを閲覧しました。闇の力を手に入れた頼朝、滅びた平家、そして恨みを抱き地獄より蘇る景清…。
なんて面白そうなゲームなんだ!とは思いましたが、やっぱり蘇るあの阿鼻地獄。ゲーセン通いでそこそこACTは得意になりましたが、この頃のナムコはなかなか歯ごたえのある難易度のゲームが多かったことは、これまでリリースされたナムコミュージアムをプレイしているので薄々感じています。
果たして私の技量で通用するのかしら。しかしやってみなければ分かりません。何よりも家庭用なので、しかも長兄の買ってきたソフトなのでタダです!早速説明書で操作方法を読み、ブース奥のテーブル筐体に近づき、ゲームを開始です!
まずは知らん婆さんにハッパ掛けられた上にヒャヒャヒャと笑われてビビります。続いて画面左下にロウソクが点灯。真っ暗な背景に「地獄」と書かれたステージが出現し、空中より景清が現れます。そして和風っぽいんだけどエラいロックテイストなBGMが始まります。この時点でもう相当キテますが、何故か胸躍ります。まずはこの地獄から現世へ脱出しなければならないようです。
少し進むとデカい巻物があります。取ると景清が点滅し、剣を振ると衝撃波が前方へ飛んでいきます。クモみたいな化け物や骸骨亡者も一撃で倒せます。調子に乗って進むと、デカい岩が画面上方に出現。近付くと落下してきてモロに食らいます。慌てて攻撃しますが破壊出来ず、剣の値が減ってしまいます。これはいかんと、そそくさと逃げ、目の前の鳥居に入りました。
画面が切り替わり、景清がデカくなりました。タイマンモードに突入です。右方向へ進みますと、人魂が体当たりしてくるので、上段切りで応戦。割と簡単に倒せるので、また調子に乗ってズンズン先に進みます。すると突然「色即是空!」のボイスと共にデカい骸骨剣士が登場しました。操り人形のような不自然な挙動が、逆に不気味さを醸し出しています。
相手も剣を持っているので、どこから攻撃して良いのか分かりませんが、取りあえず上段切りで攻撃。しかしあっさり跳ね返され、しかも逆に切りかかられ、ダメージを受けます。それなら突きだと、中段攻撃をすると、ブッスリと確かな手ごたえ。3回ほど中段攻撃をお見舞いすると、骸骨剣士はバラバラに砕け散りました!が、その時飛んできた骨に当たってダメージを喰らいます。最後まで油断ならない漢でした。
ともあれ、鳥居をくぐって無事地獄を脱出!画面は日本地図に切り替わり、景清は壇ノ浦に復活しました。…ここから鎌倉まで行くのか。…しかも徒歩で。…遠いなぁ。なんて思う間もなく「長門」ステージがスタート。ここはトップビューの探索モードで、景清は8方向へ自由に走り回れます。
が、日本は既に頼朝によって闇の国にされてしまっているので、あちらこちらに魔物が這い回っています。中には飛び道具を使ってくる奴までいるので、油断するとロウソクがみるみる短くなっていきます。慌てて魔物を倒して、体力回復の青玉を取得。今度はロウソクがチビチビと伸びます。
そんな感じでロウソクが伸びたり縮んだりしていると、目の前に3つの鳥居が見えてきました。恐らく分岐点、すなわち異なる難易度が待っているわけで、まさに運命の分かれ道に立ったのでした。
さて景清は無事鎌倉まで辿り着けるのか?全てはこのボンクラプレイヤーの双肩に掛かっているのです。…不安しか残らないまま、続きます。
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