道満晴明 「ニッケルオデオン」

本・コミック
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 先日のことです(こればっか)。私も男ですので、何だか無性に女性の裸体が見たいことがあります。えぇ、ありますとも。そんな時こそ例の熱帯雨林です。この森には星の数ほどの「女性の裸体にアレコレする本」が存在するのです。しかし星の数ほどありますので、逆にどこをどう探せば良いのか分からないというのも事実です。

 そんな時はどうするか?ここはITの全能性にすがるのが一番です。そう「オススメ」です(またか)。取りあえず手持ちの「女性の裸体にアレコレする本」を検索し、そこからオススメをたぐってみるのです。この森は私自身よりも私のことを「よぉく」知っているので、私がどういう類の「女性の裸体にアレコレする本」が好きなのかも「よぉく」知っているのです。そして私はオススメをあれやこれやと漁り、そこで懐かしい名前を見つけました。それが今回ご紹介する本の作者「道満晴明(どうまんせいまん)」氏でした。

 

 道満氏はあの伝説のダメゲーム雑誌「ゲーメスト」のムック本「コミックゲーメスト」で身を起こした方で、本家「ゲーメスト」でもなかなか荒ぶるカットやマンガを寄稿しておりました。当時の私は非常に衝撃を受け、道満氏の大ファンになりました。しかし道満氏が活躍していた「コミックゲーメスト」で取り上げられていたゲームはほぼ格闘ゲームであり、私は波動拳も出せない格ゲー弱者であるため、特に興味はひかれず、結果として本家「ゲーメスト」誌上での小さい作品を読むに留まっておりました。

 やがてゲーメストは廃刊になり、私が道満氏の活躍を知る機会はなくなりました。しかし道満氏は別の場所で活躍していました。そう、成人マンガです。道満氏は成人マンガで多くの作品を発表していたのです。が、当然「ゲーメスト」の小さい作品しか読んだことのない私は道満氏がそちらの分野に進んだことは知らず、そして時は流れ、冒頭に戻り、私は「女性の裸体にアレコレする本」を探しに熱帯雨林をさまよい、めでたく成人マンガの世界で道満氏を再発見したわけです。

 

 そして懐かしさも手伝って購入したのが「よりぬき水爆さん」という過去作品の短編集でした。もちろん全編成人マンガですから「あーいうシーン」「こーんなシーン」もありますが、しかしそれよりもちゃんとしたお話になっていることに驚きました。

 とかく、成人マンガというのはストーリーがおざなりになっているものです。そりゃそうです。読者は「あーんなシーン」「こーいうシーン」を見たいわけですから、極端な話、そのシーンさえあれば他はどうでも良いのです。

 しかし道満氏の作品群はしっかりとしたストーリーがあり、ファンタジックでバイオレンスでシニカルで、なのにとてもスイートで、しかも「あーんなシーン」にもしっかり必然性があるのです。ところが道満氏の描く女性は細い線と柔らかい曲線で表現され、とても可愛らしく魅力的なのですが、しかし成人マンガとしては致命的なことにちっともいやらしくないのでした。

 このような一本筋の通ったストーリーテリングと全然いやらしくないキャラクター造詣が相まって、「これは『成人マンガ』じゃなくても良いんじゃないか!?」と思えるほど、作品としてかなりのレベルのものになっていました。そして「よりぬき水爆さん」を読み終わった私は、まったくムラムラした気分にならず、むしろとても素敵な短編小説を読み終わった後のような満足感を得てしまい、「道満氏の他の作品も読みたいものだ」と独り頷いたのでした。

 さて、こうなると次の展開はお分かりでしょう。そうです、再び熱帯雨林に潜り込んだのです。今度は普通に「道満晴明」で検索し、氏の作品を漁りました。そして見つけたのが今回ご紹介する作品「ニッケルオデオン」なのです(長い前置き終わり)

 

 「ニッケルオデオン」とは1900年代初頭のアメリカで流行したミニシアターで、ニッケル(5セントのスラング)で数本の短編映画が楽しめるオデオン(ギリシア語の「劇場」)というわけです。ですから本作も当然短編集で、元々のニッケルオデオンが風景やドラマ、コメディなどを上映していたように、本作も様々なジャンルの短いお話がまとめられています。

 SFにオカルト、ファンタジーにホラー、不条理に不可解。めくるめく不思議な世界は、どこかレイ・ブラッドベリを思い起こさせます。ブラッドベリも様々な短編を書き連ね、そのどれもが奇妙で強烈な後味を残すものばかりでした。本作も同様に強烈な後味を残すお話ばかりですが、しかし普通の短編集とはちょっと趣が違うのです。

 それは「物語が未完である」という点です。と言っても、話が尻切れトンボで終わってしまうわけではなく、どのお話もしっかりと起承転結が設けられています。どの物語の主人公たちも、どのような形であれ、一つの解決を見ます。しかしそれが次の物語の出発点でしかないことを、どの物語も痛烈に感じさせます。取りあえず、事件は終わった。しかし…。本作の「結」はいわゆる「めでたしめでたし」のような「完全に終わり」ではなく、まだ物語に続きがあることを感じさせるのです。

 そしてその続きは言うまでもなく、今物語を読み終えた読者の頭の中にあります。それは「この後どうなるんだろう?」と疑問を抱いて、うっすらモヤモヤと思い浮かべるというより、読者は半ば自動的に、一瞬で様々な可能性を考えてしまうのです。これが本作の持つ魅力、いや魔力でしょうか。短編集は数あれど、ここまで読者に物語の「先」を匂わせる作品を、私は他に知りません。

 と言って、本作は決して難解なものではありません。むしろ分かりやすく、むしろバカバカしく、やけにトンチがきいていたり、ド直球でグロだったり、やっぱり成人成分が仕込んであったりで、描かれているものはそれ以上でもそれ以下でもないのです。このような「気負わなさ」も道満氏の力量であり、魅力であると思います。

 

 

 さて、本来ならここで内容に触れたいのですが、しかし詳しい内容を全然知らない方が確実に楽しめると思いましたので、紹介しません。ですが、こんな紹介で「よし!読んでみよう!」という豪胆な方はいないでしょうから、こちらの試し読みをお勧めいたします。出版は2012年ですので、まだ書店で手に入りますし、熱帯雨林もありますので、是非ご一読していただければと思います。


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todome

過去のホームページ時代より寄稿させていただいておりましたが、とある作品を完結させぬままに十数年すっかり忘れ、この度親方の号令により、再び参加と相成りました、todomeと申します。 主に小話を寄稿させておりますが、マンガ、ゲームにつきましても、今後ご紹介させていただこうかと思っております。どうぞお付き合いください。

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